ババン時評 “持たざる者”同士の相剋

ドイツではメルケル首相が移民政策でつまずき、党首の座を退いた。トランプ米大統領中間選挙で上院を制し、下院では過半数に届かなかったもののなぜか“大勝利”を宣言した。米・独など民主主義のリーダー大国で、多民族化とあいまって国民の分断・分裂が深刻になっている。わが国にもその“兆候”が見られる。

わが国でも、勤労者の低収入化が進み、社会の中間層の崩壊・メルトダウンが進み、中間層の「総下流化」が進んでいる。そして、これから顕在化するであろうと思われるのは、これまで問題視されてきた、持てる者と持たざる者の格差ではなく、国民の分断・分裂の危惧においては、より根源的で深刻な中間層における格差である。サラリーマンの中間層や低収入階層の中での、いわば“持たざる者”同士の間に生じつつある「格差」である。

問題は、こうした中間層における、わずかな「格差」が引き起こすであろう心理的な「軋轢」である。ありていに言えば、働いても報われないことへのいらだち、あきらめ、持たざる者同士の、わずかな「格差」への反応、ねたみ、そねみの心理的な葛藤である。まじめに働いても報いられないとなれば、正直に働く者ほど、自分の働きの無さ、自己嫌悪、無力感などのマイナス感情にさいなまれる。情けない話だがそれが人間だ。ひいては他人や社会や政治への不信感を増幅させることになる。

世界の流れの中では、まだ日本の世情は安定していると言えるが、いずれ日本も、平均的な国民の間に感情的な相剋が生じるのではないか。すでに昨今の日本は、中間層の自信喪失が国民全体の心を荒廃させ世情をトゲトゲしくさせているのではないか。近い将来、それに拍車をかけるのが移入労働力の増大であろう。わが国も、遅かれ早かれ、米国、ドイツ、英国のような国民分裂の苦悩を味わうことになるのではないか。(2018・11・11 山崎義雄の「ババンG」に「“持たざる者”同士の反感・離間」あり)