ババン時評 賜杯 貴景勝と 師 貴乃花

大相撲で、22歳の小結、貴景勝が初優勝した。まわしを取らせず素早く重い突っ張りで相手を圧倒する小気味よい相撲がフアンを魅了した。同時に、マスコミの“誘導”もあり、師 貴乃花の教えが貴景勝の口から語られ、彼の成長にとって師の教えがいかに大きかったか、改めて鮮明になった。

一夜明けるとマスコミやネットには、『「貴」の教え、実った賜杯』(朝日新聞11月26日)などと、「貴」礼賛ニュースが氾濫した。相撲協会側としては、いまさらマスコミで貴乃花の偉さが喧伝されることを、快く思わない向きもあったのではないか。

少し前だが、朝日新聞で、相撲関係の社説などを担当する西山良太郎記者が、貴乃花相撲協会辞任を記事にした(同紙10月19日)。「電撃退場が問う角界のいま」と題して解説し、辞職の原因について、協会側の主流派には、「組織としての包容力とバランス感覚」に問題があったとし、貴乃花には、「自説を見極める判断力と仲間を増やす意思疎通」に難があったとした。

要するに西山記者の判断は、協会側と貴乃花の双方に問題ありとするものだが、相撲界に密着する記者としては、協会側に注文を付けることは、なかなか言いにくいはずの一言であったろう。とはいえ、見方によっては、この西山分析は、「喧嘩両成敗」的な判断にも見える。

当時の、辞任にいたるまでの貴乃花の言動には、意固地なまでの一途さ・真剣さ・潔癖さが見えた。おそらくそうした姿勢は、貴景勝自身が言う、時として「弱い自分が出そうになる」ことを克服するように強く指導した貴乃花相撲の根本精神でもあったろう。問題はその、一見かたくなにも見える貴乃花の言動を受け入れるだけの、「組織としての包容力とバランス感覚」が、主流派側になかったことではないか。貴乃花の非より協会側のほうに、より大きな問題があったと言えるのではないか。

ともあれ、貴乃花の、相撲道への関与がこのまま断ち切られるのは相撲界の大きな損失だと思うが、まずは貴景勝の優勝を慶びたい。そして今後も、貴景勝には、「大物力士に立ち向かうには四股を踏め」と少年時代に教わったと言う貴乃花の教えを心の支えに、素早く重い突っ張りで着実に上位を、そして横綱を目指してもらいたいものだ。(2018・11・28 山崎義雄)