ババン時評 失われた「三方良し」

 

大方の予想に反して日産元会長のゴーン氏が再々逮捕された。今回は、オリの中で粗末な日本のオセチをいただくことになりそうだ。内外にはゴーン氏支持や同情の声もあるが、個人の損失を会社のツケにした疑いの今回は、日本の司法のルールに従っていただくしかないだろう。

今月某日、某テレビの某番組で某氏(橋下徹長嶋一茂木村太郎)らが、ゴーン氏について語り合い、彼の報酬は世界的にみれば高すぎない、遠慮なくもらうべきだ、日本の司法はおかしい、もし結果が無罪となったらどうするのだ、といった具合に、3氏の呼吸がぴたりと合って盛り上がっていた。

冷静な分析を欠いた軽薄な話の盛り上がりは実にテレビ的だが、それにしても3氏の呼吸の合い方は異様だった。うわついた仕事でしこたま稼いでいるお三方の感覚とご意見は、地道に稼いでいる一般勤労大衆や一般市民の感覚とはだいぶズレがあるようだ。

一方、経済同友会の小林喜光代表幹事は、今月の定例記者会見で、海外の経営者の高額報酬は年30億~50億円というケースもあるとしながらも、「年に1億円以上もらってどうするんだ」「20~30年経ったら亡くなる人たちだ」と言い、さらに、「日本は『三方良し』」の精神で「社会のことも考えている」と言ったという。

よく知られる「三方良し」は、近江商人による、「売り手良し、買い手良し、世間良し」という商売の心得を教えたもの。「近江商人」は、近江の国における「地商い」ではなく、近江国外に出て広く商う。その近江商人が、よその土地においてさえも「世間良し」を大事に考え、商いの3本柱の1本に据えているところに大きな意味がある。

その現代的な意味を、小林氏が指摘しているのだ。利益を追求し私腹を肥やす現代の資本主義が喪失してしまったのは、まさにその「世間良し」の思想である。言いかえれば、本来、資本主義が持っていたはずの「社会還元」の理念がいま失われているのだ。

小林氏の発言は、上記の3氏にも参考にしていただき、ついでに、お手盛り高額報酬を狙ったあげくに退陣に追い込まれた産業革新投資機構の旧役員9名様にも反省の材料にしてもらいたいものだ。(2018・12・22 山崎義雄)