ババン時評 増殖する倫理欠陥リーダー

 

なんと、仏政府が日本政府側に、日産自とルノー資本提携を求めてきたという。ルノー筆頭株主である仏国家は、日本の政府筋を動かして「ゴーン後」も“おいしい”日産を確実に掌握したいのだろうが、レキとした民間企業の日産を巡って日本の政府筋がどうこうできるはずがない。

日産は、「ゴーン後」の経営体制を立て直すために、特別委員会を発足させたという。外部有識者社外取締役7人による「ガバナンス(企業統治)改善特別委員会」である。初会合の後の記者会見の模様を各紙が一斉に報じた。2人の共同委員長、榊原定征氏(前経団連会長)と西岡清一郎氏(弁護士)の発言を紙面で見ると、各紙記者の“筆さばき”に微妙な違いがある。

朝日では、榊原氏は「人事権や報酬決定権がすべて一人に集中していた」と不正の背景を指摘した。西岡氏は、「企業の経営者としての倫理観に問題があったと素朴な感想をもった」と述べたとある。

読売では、榊原氏は「(ゴーン被告の不正を)チェックする体制は形としてはあったが、機能していなかった」とし、西岡氏は「一人の人間に権限が集中したことが問題」と述べたとある。

日経では、西岡氏は、「(ゴーン元会長の不正は)経営者の倫理としていかがなものか。一人に権限が集中したのが問題と認識している」と述べた。榊原氏は「ゴーン元会長の実績を考えると不正は想像を超えた事態だ」と指摘したとある。

発言要旨の捉え方や表現の違いを気にしなければ、総じて、ゴーン氏の1強体制と倫理観の欠如を指摘していることになる。これらの発言のなかで飛び切り良いのは、西岡氏の、「企業の経営者としての倫理観に問題があったと素朴な感想をもった」という発言だ。真実と法理を第一義とする元検事で弁護士 西岡氏の、“らしからぬ”「素朴な感想」は、庶民的で常識的な「感想」とマッチするところが良い。

昨年相次いだ大手企業や中央省庁の不正の根も、つきつめれば「ガバナンス(企業統治の欠陥)ではなく、すべて「倫理観の欠如」にある。ならば企業にも官庁にもそれぞれの組織に相応しい具体的な「倫理基準」が必要ではないか。それに基づいてトップ層の「言動」を厳しく評定する。欧米流の「ガバナンス」という管理ないし監視制度より、日本的・道徳的な「倫理規定」や「行動基準」が必要ではないか。(2019・1・25 山崎義雄)