ババン時評 オレオレ詐欺の“二次被害”

 

NHKテレビの「騙されない劇場」とかいう番組で、詐欺の手口を紹介し、「ひとつ(ストップか) 私はだまされない」と警告している。そういうオレオレ詐欺事件の報道を見ていると、アポ電(アポイント電話)詐欺の例などでよくもまあそんな大金を家に置くものだとあきれたり、息子の声も分からないのかとさげすむような気分になる。

アポ電詐欺は、息子や警察官などになりすまして電話をかけ、オレオレ詐欺的な問答で信用させ、自宅に現金があるかどうかを聞き出し、住所を確かめてから強盗に押し入るという荒っぽい手口である。アポ電詐欺犯にとってもっともおいしいカモは、大金を家に置いて一人で在宅しているオバアチャンである。次いで老夫婦だけが在宅する家である。難しい爺さんではなく少しボケかけている爺さんなら最高だ。

どんな形の詐欺にせよ、まずは人間の“情”に食い込むところから始まる。人間の感情は歳とともに脆くなるが、とりわけ身内に関する“情”は、老いてますます“たわいなく”なる。さらに子を思う母親となると父親よりその傾向が強く、したがって男親より圧倒的に女親の方が騙されやすいということになる。特に子育て一筋に生きてきた高齢の母親が騙されやすい。

問題は詐欺被害者のその後である。現金を略取され、心身的な危害を受けるというような直接的な“一次被害”だけに目が行きがちだが、これに加えて、詐欺にあった後の、連れ合いや本物の息子や家族からの非難・攻撃や、知人、友人、ご近所からの蔑視などという“二次被害”が大きいのではなかろうか。想像するだけでも、詐欺にかかったオバアチャンの情けなさ、辛さ、いたたまれなさは大変なものだろうと思う。時には死にたいと思うほどの自己嫌悪にも陥るのではないだろうか。そう考えると、気のいいオバアチャンや老親を放っておいた息子や家族にも責任の一端、あるいは責任の大半があるのではないか。

私のように払うカネのない者は安心だが、カネのある人は、例えば息子は老親に「俺が電話して、カネが必要だと言っても絶対に出すな」とか、娘などが、「○○ちゃん(息子の名前)からおカネが必要だと電話してきたら、必ず私に相談してネ」と言い聞かせておくなど、日ごろのケアをしておくことが大事だ。それは、親孝行をしなくなった今の時代の、せめてもの親孝行にもなろう。ついでにNHKのアナも、「ひとつ、私はだまされない」の後に「ふたつ、あなたはだまされる」と警告の一言を加えてみてはどうか。(2019・3・14 山崎義雄)