ババン時評 マネー経済時代の守銭奴

 

ゴーン氏の所有する豪華ヨットの名前が「シャチョー号」とは笑わせる。彼の考え方・生き方、“ゴーン理論”の一端をうかがわせる命名だ。またフランスで、ゴーン氏が代理店経由で自分のポッポに資金を還流させた疑惑が持ち上がり、これまでゴーン氏にフォローの風となっていたフランス世論に変化の兆しが出てきたようだ。

風向きがフォローからアゲンスト(向かい風)になり、東京地検は勇躍して4度目のゴーン逮捕に踏み切った。テレビでは、フランスの街頭インタビューで、日本の警察には日本の警察の考え方があるのでしょうといった意見も聞かれた。「火のないところに煙は立たない」との発言には驚いた。この諺を直訳したようなフランス語ではなかろうが、同じ意味の表現があるとは面白い。

諺ではないが「守銭奴」という言葉がある。この言葉は、200年以上も昔のフランスの劇作家モリエールの戯曲「守銭奴」によって広まった言葉だというからゴーン氏にぴったりだ。しかし戯曲「守銭奴」の主人公アルパゴンは、庭に埋めておいた大金が盗まれて大騒ぎするのだから、守銭奴などというよりケチに近い。ゴーン氏とは比べようもない。ケタが違う。

いきなり固い話になるが、朝日新聞(4・5)によれば、ゴーン氏の辣腕弁護人といわれる 弘中諄一郎弁護士は、今回の4度目の逮捕について、「身柄拘束を利用して被告に圧力をかける人質司法」だと憤り、これに対して検察側は、今回の事件は「全然別の事件」であり、「逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがあった」とする。

同紙はさらに2人の識者の意見を紹介している。元裁判官の水野智幸法政大教授は、「在宅で追起訴が筋」だと語り、「保釈されて公判準備が進んでいる最中に再逮捕するのは不当だ」と言う。一方、元東京高検検事の高井康之弁護士は、「保釈は別件の判断だ」と語り、「在宅で調べて起訴するのでは、証拠隠滅が進む危険性があった」とする。今回の逮捕の当否を巡る意見は割れている。

ともあれ、もはや金融資本主義、マネー経済の現代では、守銭奴は死語だ。守銭奴などという生ぬるい言葉は、ゴーン氏のような“マネー・モンスター”の所業に送る言葉として相応しくない。事件は今後どのような展開を見せるのか。東京地検の健闘を祈りたい。(2019・4・5 山崎義雄)