ババン時評 「従業員重視」の軽視

 

世界先進国の中で一番の怠け者が日本人だといわれたら大方の日本人は怒るだろう。働き過ぎや過労死が問題になり、アベノミクス働き方改革で残業規制をかけられるほど日本人は働いているのである。ところがそのわが日本の労働生産性(時間当たりのGDP)はOECD経済協力開発機構)中で20位、主要先進国7カ国中の最下位、ドンジリだ。なんでそうなるのか。

残念な最近のニュースは、5年の非正規雇用期間を経過して正当に「無期雇用」を求めた非正規社員が、仕事がないという理由で「解雇」を言い渡された日立製作所による“働く者”軽視の一件だ(朝日4・17)。私のように古い人間は“日立野武士”といわれた時代の日立を知り、いまだに日本の製造業を代表する日立の“気骨”を信じているだけに、この“小さな事件”が残念だ。

ともあれ、働き方で大きな問題は、非正規社員の拡大だ。いま、6年超の景気拡大が続いている中で正規雇用者が増えてはいるものの、パート・アルバイトなどの非正規雇用者の増大がそれを上回り、全雇用者の4割に迫るところまで拡大している。ワーキングプアー(働く貧困層)が増え、生活保護支給額に満たない低所得の労働者が増えている。

歴史的に見れば、こうした状況を生じた大きな要因として戦後の経済成長を支えてきた日本型経営システムの崩壊が挙げられる。リストラ経営による人件費の削減、非正規労働者の雇用など労働力の流動化による人件費の変動費化が当たり前の経営になってしまった。その結果として、企業収益が労働所得に回らず家計に還元されにくくなった。いま企業の営業純益は確実に伸びているにもかかわらず、逆に人件費比率は下がってきているのだ。

残念ながら近年、日本の経営者の目は株価と投資家に向いている。しかし真っ先に考えるべきは自社の従業員ではないか。本来の日本の経営は、良くも悪くも「日本的経営」といわれた従業員重視の経営であり、ゴーン日産元会長に代表されるマネー重視と首切りの経営ではなかったはずだ。従業員重視の経営は最も重視すべき企業の社会的責任のはずだ。財界・産業界のリーダー層は真剣に考え直すべきではないか。(2019・4・20 山崎義雄)