ババン時評 国はドンドンお金を刷って使え

赤字財政が頭痛のタネの日本にとって耳寄りな?理屈、国はドンドンお金を刷って使えというとんでもない経済理論が話題になっている。MMT(モダーン マネタリー セオリー=現代金融理論)だ。安倍首相も、この珍説にまんざらでもない反応を示したと伝えられる。

平成時代の国家財政は、税収減にもかかわらず大企業や高所得者中心の減税で経済成長を目指すというトンチンカンな経済運営を続け、平成最後の安倍政権は、“物価の番人”だったはずの日銀を経済政策の主役にして、デフレ脱却を旗印に大量のカネを市中に供給し続けた。

そこに登場したMMT理論は、要するに、独自の通貨を持つ国は、自由に通貨を発行して財政支出を拡大してもよい。財政赤字を大きくしても、急激なインフレや金利の上昇が起きない限り問題ない、財政破綻を招く恐れはないとする。さらにおもしろい?のは、国家財政は税金によって成り立つという常識の否定だ。増税しなくてもお金を刷る手があるというわけだ。

MMT論者の1人、ニューヨーク州立大ケルトン教授は、「米国はドルを得るために課税しなくてもいい。税金の役割の一つは、政府が経済に注ぎ込む総量を調整しインフレを抑えるところにある」と言う(朝日新聞4・17)。税収分をインフレ抑制に使うというのは奇異な理屈だ。

お金を刷る手があるという理屈は、MMT以前にも、刷ってヘリコプターで撒けといった米国の経済学者ミルトン・フリードマンがおり、わが国では岩田規久男学習院大名誉教授(元日銀副総裁)がいる。かつて岩田は、日銀券とは別に国家紙幣の発行を提唱した。

MMTの理屈なら、巨額債務を抱えていながらインフレも金利上昇も起きていない日本は、MMT理論の見本のような国だ。どんどん通貨を発行できるのだから子孫に債務のツケを回す心配などは無用だ。赤字財政などを気にせずに通貨を発行して経済成長を図ればいい、となる。

しかし、国民はMMTを鵜呑みにするほどノー天気ではない。アベノミクスの旗頭である黒田東彦日銀総裁でさえも、MMTについては記者会見で「財政赤字や債務残高を考慮しないのは極端な主張。中長期的な財政健全化は必要だ」と常識的な見解を述べている。放漫財政を是認するような経済理論は、堅実な日本人には受け入れがたい。(2019・5・9 山崎義雄)