ババン時評 人生100年時代の貯えは?

これには驚いた。朝日新聞(5・23)一面トップの見出しである。「人生100年の貯えは?」十分かという問いかけは、まるで週刊誌の見出しか、銀行・証券会社の宣伝文句ではないか。記事は、人生100年時代の資金備蓄について、「年代別心構え」を「国が指針案」で教えるという金融庁の「報告書案」を報じたものだ。

この「国の指針案」では、一家で平均約22万円の年金生活となる高齢者の場合、月約5万円の赤字が発生するという。これで老後の20~30年を生きるとすれば1300~2000万円が必要になるから自助努力で考えろという。「年代別心構え」では、現役期は小額からでも資産形成の行動を起こせ、定年退職前後はマネープランを検討しろという。

たまたまネットで、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が、老後で不足するのは生活費ではなく、“生きがい予算”だと言っている。何が足らないかというと、教養・娯楽費25077円、交際費 27388円、合計すると、毎月52465円くらいの支出が高齢者にもあると細かい計算を示している。だとすると、貯えのある人はご同慶の至りで問題ないが、貯えのない人や臨時収入などのない人は、教養・娯楽費を削るとか、諦めるしかない。しかし、国の“おどし”よりは救いがある。

いま銀行はアベノミクスの低金利政策で業績悪化に陥り、窓口業務の手数料アップや信託商品の押し売りなどによる手数料稼ぎに必死になっている。これに関して痛快なのは、朝日新聞(5・23)が3人の専門家にインタビューした中で、荻原博子さん(経済ジャーナリスト)が、『「やらない」が身を守る』と言い切っていることである。銀行や郵便局の窓口で勧められるままに投資商品に手を出して多くの人が損をしている。メリットばかり説明してデメリットの話はほとんどない。特に高齢者が身を守る方法はたった一つ、やらないってことです、と言う。

15年ほど前には「100年安心年金制度」と言ったこともある国が、今度の「国の指針案」では、公的保障には限界があることを認め、国民1人ひとりの自助努力を求めているのである。高齢化時代の高齢者は、国や金融資本の脅しやまやかしにごまかされない自助努力で保身を考えなければなるまい。(2019・6・4 山崎義雄)