ババン時評 自衛隊はいつ実戦を迎えるか

 

遠からず自衛隊が実戦を迎える日がくる? 人気漫画家かわぐちかいじ原作の映画「空母いぶき」を見た。話のスジは20XX年、わが国の海上警備隊員を拘束して離島に不法上陸した“敵国連邦”部隊に対して、わが国自衛隊が出動する。すさまじい空と海の戦闘が展開される。

空母いぶきを中心とする艦艇群に、「これは訓練ではない。実戦だ」という指令が飛び交う。空母いぶきでは、この戦いは、これまで一人の戦死者も出したことのない自衛隊の危機だと言う副長(配役・佐々木蔵之介)に、本当の危機は国民に被害が及ぶことだ。国民を守るために自衛官の自分が死ぬことは何でもない、と艦長(配役・西島秀俊)が言う。

わが国自衛隊は1992年(平成3年)の湾岸戦争時の、「後方支援・復興支援」のための海外派遣を皮切りに、国際連合平和維持活動(PKO)をはじめ各種の目的で平成30年間に、10数度の海外派遣を行ってきたが、幸いにも1人の犠牲者も出していない。派遣自衛官だけでなく、この平成の30年間に、実戦を知らずに将官・将軍となり退役していった自衛官も大勢いる。

失礼ながらその一人、河野克俊前統合幕僚長が、朝日新聞(5・17)で、北朝鮮のミサイル発射で緊迫した2017年に、自衛隊の対応を真剣に検討したと語っている。すなわち、米軍が北朝鮮を攻撃した場合は、16年施行の安保法制に基づき、米軍を後方支援する「重要影響事態」や、米軍が攻撃された場合に集団的自衛権の行使で自衛隊が反撃する「存立危機事態」を想定したという。

現実は憲法改正の騒がれる時節柄であり、映画で私の目を引いたのは、内閣総理大臣(配役・佐藤浩市)の苦悩と決断である。関係大臣に決断を迫られながら、日本は戦争しない国であると再三発言して悩み、自衛官の死者が出るにいたって自衛権の発動を決断する。これは「戦争」ではない。自衛のための「戦闘」だと言う論理である。

集団的自衛権は、憲法違反と騒がれながらも4年前の安保関連法で認められた。今度はそれを「緊急事態の宣言」として憲法に盛り込もうと安倍首相は考えている。武力攻撃、内乱、自然災害時などの緊急事態発生時に、総理大臣が「緊急事態の宣言」を発して、必要な国家権力の行使を容易にしようというものだ。憲法改正はその賛否を問うものであり、国民にとっては簡単に賛否を決めかねる重い問いかけだ。(2019・6・22 山崎義雄)