ババン時評 2000万円貯めなくてもいい?

先の参院選の争点にもなった、老後の生活費に2000万円貯めなければならないとする議論はすっかり影をひそめたようだ。もう誰も「2千万円説」を唱えたり、それに怯えて危機感を持つ者はあまりいない。これほどの“一過性の大問題”はめったにあるものではない。

私の付き合っている平均的な年金生活者は、みんな2千万説を最初から笑っていて、年金でつつましくやって行けるし、ささやかな貯えは使い切って死ねばいいと言っている。参院選の前に、どうしてこれから老後を迎える中高年や若者を2千万円説で脅す必要があったのか分からない。

参院選では野党各党が程度の差こそあれ年金問題で安倍政権を批判した。しかし野党は年金制度の破たん危機を訴えるだけで対案を持たず、与党を追い込むには至らなかった。安倍首相が選挙用に「年金増額も可能だ」と言ったのは失言で、与党も年金制度には、「経済成長で財政基盤を強化して」年金制度を維持していく方向で、いよいよこれから取り組むことになる。

先ごろ5年ごとの見直しで年金財政の見通しが発表された。年金の問題は財源と給付額に尽きる。財源の方でいえば、小さくて大きな問題の1つに、いま若者を中心とする制度不信による保険料未納の問題がある。どうせ将来大した年金はもらえない、などと考える確信犯的な保険料未納者は、本気で将来の生活設計を考えているのだろうか。かりにも最後は国の生活扶助に頼ればいい、などという不埒な将来設計だけは想定してもらいたくない。

給付額の方で言えば、真面目に税を納めてきた年金生活者の年金が、生活保護の受給額を下回るような状態は理不尽だ。そこで提案だが、何十年か先に、所得配分率が50%を切る事態を迎えるなど、いよいよ年金が危ないとなったら、年金維持のための消費増税でも“年金税”でもやればいい。

年金未納者は言うに及ばず、生活保護者の支給額も見直して均等に税を取り立て、低年金受給者や本当の弱者に配分する。それこそ本来の税の役割にかなうものではないか。政府はいまからそう公約して、将来、どのような財政状態になろうとも、配分率が50%を切ることはないと公約すればいい。若者や中高年の安心感につながり、保険金未納者の減少にもつながり、それでこそ100年安心の年金制度にもなるのではないか。(2019・9・5 山崎義雄)