ババン時評 山本五十六は名将か

映画「アルキメデスの大戦」を見た。冒頭の、戦艦大和の凄まじい轟沈場面が圧巻だ。主人公は架空の数学青年 梶直(配役 菅田正輝)だが、現実の主人公は梶を見出して起用する山本五十六舘ひろし)だ。山本は、徹底した対米戦争回避論者だった。

話は映画から離れるが、その山本が、米海軍は日本と真珠湾の距離、補給、制空権、深水その他の見地から、日本による真珠湾攻撃は不可能だと計算するに違いないと読んで真珠湾攻撃を画策した。山本と同様に対米戦に反対した将軍に井上成美がいるが、井上は、開戦後の米国の戦力増強力を重視して、米国には勝てないと説いた。

両者の違いは人柄、性格の際立った対象からくると永井陽之助「歴史と戦略」は言う。井上は数学と語学に強い合理主義者だが、山本は非合理主義者でハッタリ好きの勝負師で、相手が合理的に判断することを見込んで非合理的手段を採る合理的なギャンブラーだと見る。山本は真珠湾で「桶狭間とひよどり越えと川中島を併せ行う」と言った。

映画は、昭和8年当時の建艦会議で、大型戦艦を主張する島田繁太郎中将(橋爪功)側と、空母と航空機を主張する山本五十六少将らの攻防が主軸だ。軍人嫌だった梶が対米戦の可能性を示唆されて翻意し、海軍主計少佐として任官する。天才的な数学能による数式展開で、建艦派の提示する不当に安い偽装予算案を粉砕し、高波に弱い戦艦部分を指摘していったんは廃案に追い込むが、戦艦派の巻き返しで戦艦建造が決定する。

映画のラストは、梶に論破されて設計案を白紙撤回させられた平山忠道技術中将(田中泯)が梶を呼び出し、力を貸してくれと頼む。見事な戦艦模型を前に、この戦艦(大和)は最初から撃沈される運命にある。大和の最後は、負け方を知らない日本軍と国民に戦いの終わりを告げるものだと説く。模型に見入る梶の目が光る。

そして、大和は轟沈して敗戦を迎える。「攻撃は最大の防御なり」とも言われるが、イギリスの軍事評論家で戦史家のリデルハート卿は、「敗者はつねに最初に攻撃した側にある」と説いたと同著「歴史と戦略」にある。この教えからすれば、山本の真珠湾攻撃は過ちとなり、現代日本専守防衛選択は正しいことになる。(2019・9・11 山崎義雄)