ババン時評 「大嘗祭」のこころ

 

さきごろ、天皇家の重要な祭祀「大嘗祭」が厳かに行われた。NHKテレビが最初にニュースを流した時に、神道的だとの批判があるというようなコメントがあったので、オヤと思ったが、次のニュースからはそのコメントが聞かれなかった。「待った」がかかったのではないか。

儀式では、天皇陛下は、天皇家の斎田(茨城県京都府)で採れた米を中心に神々に新穀などを神饌に供えて五穀豊穣と国家の安寧を祈る。この儀式の肝心なところは秘事であり非公開とされたが、公開された場面は新聞テレビで報じられ、国民は幽玄で厳粛な式典に魅了された。

後日、天皇・皇后両陛下は伊勢神宮に参拝され、即位のご報告をなされた。伊勢神宮にはこんな行事がある。山本七平著「日本人とは何か」(祥伝社)に詳しいが、伊勢神宮は今でも3町歩ほどの斎田で米を収穫し高床式の倉に保存する。毎朝これを脱穀して神饌に供える。この米も昔ながらの黒米・赤米が混じる。塩も自らの塩田で「万葉集」に出てくるような堅塩(かたしお)だ。

神饌の基本は御飯と塩と水、鰹節、鯛(夏は干物)、昆布、荒布などの海産物と、野菜・果物、そして酒で、朝夕2回捧げられる。神饌は豊穣を願う祭儀ではあるが、当時の農民の生活と密接に関連した作業をしながら祈念することで、豊穣がもたらされると信じたものであろう。

おもしろいのは山本七平さんの感想だ。「そうした祭祀を行い(中略)、伊勢神宮の建物もだいたい千五百年前と変わらないと思われるが、一方で最新式のインテリジェントビルが林立する日本、この日本はやはり相当に面白い文化を持つ国といえるであろう」というのだ。

偶然たまたま、読売新聞(11・15)の、1つの大嘗祭記事の終わりがこう結ばれている。(皇居の大嘗祭の)「会場からは、東京・大手町の高層ビルのあかりも見え、ほのかな灯篭の明かりがともる大嘗祭とのコントラストを演出していた」というのだ。

大嘗祭神道儀式であるとか、国費投入はおかしいとか、すでに秋篠宮様まで言及して波紋を呼んだ。しかし、皇位継承儀式はかけがえのない日本の歴史・伝統・文化であり、限りなく国事に近い行事ではないか。その認識の上で“費用”の問題も考えるべきだろう。象徴天皇の精神を具現化する意味でも皇室儀式は重要だといえるのではないか。(2019・11・20 山崎義雄)