ババン時評 「他山の石」英のEU離脱

英国よどこへ行く。ついに英国は、欧州連合(EU)から離脱した(1月31日)。第2次大戦後に世界の平和維持を願って始まった欧州統合は、これまで確実に参加国の拡大を続けてきたが、ここにいたって主軸の英国が初めて加盟国から離脱するという歴史的な転機を迎えた。

はたして英国のEU離脱は正しい選択だったのだろうか。英国が、4年前に国民投票欧州連合(EU)からの離脱を選択した時にエッセイを書いたことがある。「英のEU離脱と我が国の憲法改正」というテーマだ。内容は、英のEU離脱決定を「他山の石」としてわが国がこれからやろうとしている憲法改正国民投票を考えるべきだというもの。他山の石とは、よその山の粗悪な石でも、自分の宝石を磨くのに使えるということで、この考えは今も変わらない。

当時の論壇では、例えば、英の選択は日独伊の国際連盟脱退で第二次大戦に向かった国際連盟解体時に似ている(仏経済学者ジャック・アタリ氏)とか、英国の選択は100年単位の大きな政治潮流の変化だ(慶応大教授細谷雄一氏)など歴史的に捉える見方も強かった。

最近では、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏がその著「哲学と宗教全史」で言っている。(大要)20世紀のイングランドと大陸の哲学者は交流し政治哲学論争もやっていて、経済的な面のみならず、思想的な面でも深い交流を続けてきた。このような歴史的な文脈で考えると、ブレクジット(EU離脱問題)はかなり異質な動きである。連合王国はいずれEUに復帰するのではないか、と見る。

英国を“他山の粗石”とする、先のエッセイの結論を変える必要はなさそうだ。すなわち「憲法の何をどう改正すべきか、論点整理もできていない現状で、票欲しさによる既成政党によるプロパガンダによって誤った“先入観”をすり込まれると英国の轍を踏む。政党や護憲論者のプロパガンダに幻惑されない冷静さが必要だ。国会審議という代議制で進められる今後の論議を見守り、冷静に判断しながら、主権者として最終判断を下す国民投票を迎えるべきだろう」-。

ただし問題はこの間、野党の“漂流”が続いていて、野党が“土俵”にのらないために、4年後の今日に至るまで国会でも憲法審査会でも「代議制」の責務が果たされず、国民の参考になる憲法論議がなされていないことである。(2020・2・6 山崎義雄)