ババン時評 大人による“少年犯罪”?

 

安倍首相は、かねてから考えていた少年法の改正案について、今国会に提出することを諦めたという。改正の狙いは、少年法適用の年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることだったが、その提出を諦めた理由は、例によって、弱い者の味方・正義の味方を気取る公明党に強く反対されたことだという。

少年犯罪の凶悪化が進む。平成における未成年による殺傷事件では、母親を殺害後屍姦しその幼児を殺害した「光市母子殺害事件」(平成11年)、数カ月におよび小学生だけを狙って2人を殺害、3人に重軽傷を負わせた神戸の「酒薔薇聖斗事件」(平成9年)、強盗殺人・殺人・強盗強姦などで初の死刑確定・執行となった「市川一家4人殺人事件」(平成4年)などがある。

さらに遡れば東京・足立区で起きた「女子高生コンクリ詰め殺人事件」(昭和63年)がある。この事件は、複数の少年たちが、真面目な女子高生を誘拐・監禁して輪姦し、激しい暴行を加えて殺害したうえ、遺体をドラム缶に詰めてコンクリートで固めて埋め立て地に遺棄するという残酷な犯行だった。この事件を報道した『週刊文春』が、「野獣に人権はない」というタイトルで取り上げ、マスコミの禁を破って初めて未成年者4人の氏名を公表した。

少年法では、被害者の処罰感情より少年の立ち直りに重点を置く。罪を犯した少年は、基本的に家庭裁判所の所管である。審判の結果により不処分となることもあり、保護観察や自立支援施設入り、そして少年院入りとなる。ただし相当のワルは成人刑法と同じ裁判を受けて、少年刑務所入りとなる。先述のように死刑執行になった例もある。

ところで、2018年に成立した改正民法により、成人年齢は22年4月に18歳となる。18歳で選挙権を持つ大人が、犯罪で少年扱いされるのは法治国家の基本を揺るがすものだろう。成人年齢引き下げに合わせて少年法適用年齢を18歳未満に引き下げるのは当然ではないか。

政府は、諦めずに今秋に予定される臨時国会への提出を目指す構えだという。公明党は反対するだろうが、少年の立ち直りを重視する法の理念は、法の適用に関わる者や健全な世論が関わって生かしていくべきものではないか。なにより、この少年法の改正をやらなければ、「大人による少年犯罪」が発生するというおかしなことになる。(2020・2・8 山崎義雄)