ババン時評 中國“帝国主義防災”の危険

中國の習近平政権は、国内のコロナウイルス封じ込めに成功したとして、コロナ感染の拡大に苦しむ多くの国々に対して、医療チームの派遣や支援物資の提供を進めている。支援を申し出た国はすでに80数か国に及ぶという。コロナ対策のリーダー、世界最大の支援国、正義の味方を演じようという中国の腹の内が透けて見える。

国営メディアを使ってコロナ作戦の成功を大々的に打ち上げるとともに、かつてない厳しさで国内メディアの情報統制が行われ、国民は、習政権への恐怖と非難の思いを強めているようだ。習主席が武漢市視察を行った日(3月10日)、多くの患者が隔離病棟から消えており、感染検査も行われていなかったという。主席の逆鱗に触れることを恐れた市当局の対応である。

その一方で中国は、対外的な支援成果を喧伝する。セルビアのブチッチ大統領は、「欧州には団結は存在せず、唯一の希望は中国だ」(読売3.25)と語り、特別機でセルビア入りした中国の医療チームを空港で出迎えたという。まさに習近平主席の“思うつぼ”である。

中国の進める「一帯一路」は、世界の潮流・グローバリゼーションに乗り遅れた国を標的にしている。そうした国々は財政やガバナンスに弱点をもつ国が多い。そのため、中国からの融資などを受けても国の発展につながりにくい。あげくは借金のかたに土地や港湾や施設などを取り上げられる例が増えている。セルビアもその予備軍だろう。

こうしたやり口の「一帯一路」戦略は、中国の歴史がたどった帝国主義の今につながる基本路線だ。習主席は、一帯一路を独自の独創的な戦略だと思っているかもしれないが、ご本人が気づかないほど中国的な体質から生まれた戦略である。国家権力が情報統制や人権侵害で民衆を抑圧しながら、対外的には覇権主義の牙をむいて弱小国から飲み込もうとするのが中国の歴史的な本性である。

中国コロナ対策はまさに帝国主義的だ。“元凶”としての意識を持たず、真摯な態度を示さず、世界の救済国として振る舞う。危険な国であると多くの民主国家の目には映っているのだが、中国政府にはそれが見えない。見えていないはずはないのだが、それを堂々と糊塗し、隠蔽し、力でねじ伏せようとする。世界は、中国の“帝国主義防災”にかく乱されないコロナ対策を進めなければならない。(2020・4・2 山崎義雄)