ババン時評 誇るべき無策のコロナ対策

これまで世界は、日本のコロナ対策を甘いと批判してきた。しかし日本は日本なりのコロナ対策を取ってきた。それはアヒルの水搔きと同じで、動きは鈍いが足は必至に水を搔いでいるのだ。しかしそのあまりに緩い対策は欧米の目にはきわめて見えにくく、無策にさえ見えるのだろう。

ところがその“アヒルの水搔き対策”が着実に効果を上げてきている。安倍首相が自慢するようにGセブン(主要7か国)で日本が最もよくコロナを制してきた。Gセブンの中で圧倒的に抑え込んでいる。その結果が、5月の緊急事態宣言の大幅解除につながったのだ。

今、欧米におけるコロナ対策の主流は、国による厳しい私権制限だ。罰則付きの外出禁止やロックダウン(都市封鎖)が行われている。たとえば仏英伊はいずれも罰則付きの外出原則禁止で、仏の場合は最大6か月の禁固刑もあるという厳しさだ。

それに比べて日本のコロナ対策は、世界に誇示できる具体的な「対策」がないまま、日常生活における密閉、密集、密接の「三密」を防ぐことを目標に掲げて、国民にひたすら「理解」と「協力」を求めてきたのである。いわば個人監視も私権制限もない“無策の策”である。世論調査などで、安倍首相の指揮が生ぬるいと国民にまで批判されるほどである。

その“甘さ”の中で、警察署の宴会でコロナが発生したり、営業停止要請を守らないパチンコ店にマニアが押し掛けたり、小さな事件では、無銭飲食で捕まった男が“控え票”を持っていてコロナでの「緊急小口融資」10万円をだまし取っていたことがバレたりもする。

しかし、世界の実情はこの比ではない。たとえばフランスでは、外出禁止令違反での罰金刑がすでに36万件にのぼるともいわれる。だがいくら外出禁止を厳しくしてもフランス人は勝手に出歩く。おそらくこれはフランス人に限らす欧米人に共通した傾向だろう。

かたや日本の場合は、心配されたゴールデンウイーク明けのコロナ患者数がさらに好転している。個人を監視しない、罰金や刑罰など考えもしない日本の“誇るべき無策”のコロナ対策が効果を上げた要因は、日本国民の善良な資質にあると言えよう。これは欧米と異なる歴史と文化がもたらした国民性の違いでもある。この「ほこり」をもって慢心することなく、必ず来るといわれる感染第2波に備えたいものだ。(2020・5・18 山崎義雄)