ババン時評 日本人意識の「三層構造」

なんで日本は、三密を守るように国民に要請するだけで、主要先進国の中で断トツのコロナ抑制ができるのか、米欧諸国はいぶかしむ。日本人の考えることはよくわからないという米欧人の指摘は今も昔も変わらない。これもよく言われることだが、米欧人の「イエス・ノー」的論理思考に対して、日本人は「イエス・バット」的情緒思考が強い。

つまり日本人は、「おっしゃる通りです」と相手の意見を肯定したうえで、「しかしですねー」と自分の考えを述べることが多い。この“重層的”な日本人の論理思考や発言に欧米人はアタマをひねることになる。もっとも近年は“重層的”でない“短絡的”な発言で物議をかもす代議士なども増えてきてはいる。しかしトランプ大統領ほど危ない短絡発言を連発する日本人は少ない。

かつて宗教学者山折哲雄さんがこんなことを言っている。すなわち、日本人の意識は、森林社会と適合する縄文的な世界観、農耕社会的な世界観、近代的な世界観、の3層構造になっていると言うのだ。つまり日本人の意識は、民族の歴史を容認しながら積み重ねてきたことによって多層構造になっているというわけだ。

片や、キリスト教圏やイスラム教圏の歴史は、古きものを根こそぎにし、新しいものにして発展してきており、重層化機能が働かない。したがって、日本人は戦争や災害などの危機には3層構造からの価値観を引き出して柔軟に対応してきたと山折さんは言う。戦争にさえも(太平洋戦争を除けば?)相当柔軟に対応してきたと言うのだ。

また、米国の政治学者サミュエル・ハンチントンは今や名著であるその著「文明の衝突」で、世界の代表的な文明は7つか8つあるとして列記した中で、中華文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明に次いで日本文明を挙げた。そして日本文明は、中華文明から独立した文明圏ではあるが、日本一国のみで成立する孤立文明であるとした。すなわち日本文明は、世界は言うに及ばずアジアにおいても独立した固有の文明だというのだ。山折さんが言う「三層構造」も日本文明の骨格だろう。

目下の、100年に1度の大災厄といわれる中国コロナ禍だけでなく、米中など世界のリーダー国であるべき先進国が、むき出しの自国第一主義で対立する危険極まりない今こそ、日本的で柔軟な重層思考が世界に必要な時ではないか。(2020・6・14 山崎義雄)