ババン時評 ロシア改憲の欺瞞と独善

日本は、隣の韓国・北朝鮮をはじめ中国、ロシアと困った国に囲まれている。それらの国に共通するのは非民主的な体質と自国に都合よく歴史を歪曲する性癖だ。そのあたりを特徴的に具現化して見せたのが今回のロシアが目指す憲法改正だ。

プーチン政権による憲法改正案が全国投票で8割近い賛成で承認されたという。賛否を問われた改憲項目はなんと206項目、その大半が例えば「最低賃金の保障」などという国民が反対するはずもない項目である。このテンコ盛り改正項目を一括して賛否を問い、約8割の賛成を得たというもの。その中に大きな問題が3つある。

第1は、大統領の3選を禁止する条項を事実上ご破算にする目論見の項目である。すなわち現役大統領や過去の大統領経験者の通算任期数をゼロ・カウントにするという不可解な条項を追加するというのだ。この目くらまし的な付加条項1つでプーチン氏は4選どころか終身大統領の座も可能になるという仕掛けだ。

第2は日本にとっての大問題というべき「領土の割譲交渉禁止」である。プーチン氏は「平和交渉の道は開いている」などと言っているという。しかし一方で「領土の割譲禁止」を容認するような国民の言動を厳しく罰する法律を考えているといわれる。これでは「日ソ平和交渉の道」に領土問題は含まれないと憲法で規定するのと同断だ。

第3の「歴史的真実の歪曲禁止」では、まずは第2次大戦終盤における日ソ中立条約の一方的な廃棄と終戦1週間前の対日参戦、終戦日以後の北方領土占領などの歴史を歪曲してもらいたくない。この前段として、英米の“誘惑”に乗じて対日参戦の見返りに日本の千島・南樺太の割譲を決めたヤルタ密約があったなど、第2次大戦にからんでは歪曲できない歴史が多々ある。

正にうどん粉をこねるような露の改憲には、安倍首相が憲法9条に自衛隊容認の1項を設けることにてこずっているのが気の毒になるほどだ。ともあれ困った隣国に囲まれている日本の立ち位置はむずかしい。中国などは他国の権益を平気で侵害しながら新香港法への国際批判には内政干渉だと反論する。同様に露も今回の改憲に他国の非難が強まれば内政干渉だと反論するだろう。だが、日本の権益に関わる露の改憲には政府もマスコミも強く“反応”すべきではないか。(2020・7・12 山崎義雄)