ババン時評 許せぬ“逃げ得ゴーン”

新年早々の大ニュースとなったのは元日産会長で保釈中のゴーン被告の逃亡劇だった。その後ゴーン被告の動向はあまり報じられなかったが、今月、彼による日産経費の私的流用10億円が新たに発覚して大きく報道され、彼の近況も話題になった。この間も彼は故郷でもある逃亡先のレバノンでキャロル夫人と熱々で優雅に暮らしていたらしい。

レバノンは地中海に臨む小国で、今は財政ピンチだが、かつては中東の金融・ビジネスの拠点だった。ゴーン被告好みの美食の国としても知られている。宗教はゴーン被告もそうらしいキリスト教系を中心に、イスラム教のスンニ派シーア派など18の宗教・宗派が国の公認になっている。内戦で国土は荒廃し、近年は隣国シリアからの難民流入が国家財政を圧迫しているという。

国税局の指摘では、昨年(2019年)3月期までの5年間に、ゴーン前会長は、社有ジェット機費用のほか、東京や海外居住の家賃などで10億円の私的流用があったことが新たに判明した。ちなみのこの私的流用分は、日産の法人所得から控除される経費への計上は認められないというから日産としてはまざに泣き面にハチである。

ゴーン被告の身勝手な理屈は腹立たしい。卑屈な逃亡劇を演じながら、レバノン入りした途端に「私は正義からではなく、不正と政治的迫害から逃れたのだ」と言い放った。木箱に隠れての飛行機逃亡という破廉恥な逃亡手段を取っても、この逃亡は「正義」から逃げたのではないというのである。

そして逃れたのは「不正と政治的迫害」から逃れたのだという。つまりゴーン被告を裁こうとしている会社法特別背任罪)などを定めた日本の法律や刑事司法を正義ではない、不正であると言っているのである。あきれるばかりの身勝手な言い分だ。さらに、政治的迫害から逃れたというが、彼に政治的迫害を加えた者はいったいどこのだれか、ぜひゴーン被告に聞きたいものだ。

日本政府はレバノンにゴーン被告の身柄引き渡しを求めているが、両国の間に犯罪人引き渡し条約がなく、レバノンには引き渡しを禁じる国内法もあって、見通しは厳しいという。ゴーン被告は日本からの脱出劇を自慢しているという。米国の会社を通じて映画化の話もあり、ゴーン被告は「不正義に直面する人の参考になるかもしれない」などと語ってその気になっているらしい。“逃げ得ゴーン”に正義を語る資格はない。天の鉄槌は下らないものか。(2020・8・23山崎義雄)