ババン時評 安倍改憲論議を引き継げ

持病の潰瘍性大腸炎の悪化で心ならずも辞任することになった安倍首相。毀誉褒貶はあったが世界に通用する宰相であったことは間違いない。記者会見では、持論の改憲が進まなかったことについて「世論が盛り上がらなかった」と悔しさをにじませたが、その大きな原因は野党が国会論議を忌避したことにある。国会議員がズルをきめこんでいて世論が盛り上がろうはずがない。

終戦から75年。この間、世界は米国主導で平和を保ちながら繁栄してきたように見えるが、実際は英国の衰退がありソビエトの台頭があり、東西冷戦の緊張があり、ソビエトの衰退があり、そして今、モンスター中国が米国と拮抗する軍事力で世界の平和を脅かす火種となっている。

世界平和を脅かす要因として、①軍事の衝突、②経済の衝突、③理念の衝突、という3つの衝突が考えられるが、始末の悪い度合いからいえば順番が逆になる。まず第1が「理念の衝突」だ。自由主義共産主義は相いれない。中国の目指すところは共産主義による世界制覇であり、その実現を目指すための経済力の強化、軍事力の強化である。今やマンモス化した覇権国家中国の人権侵害、香港圧政、他国領土の切り取りに対して世界はなすすべを知らないありさまだ。

第2が「経済の衝突」だ。軍事だけでは覇権を握れないことは、国力の疲弊でソ連が米国に屈したゴルバチョフペレストロイカで立証済みだ。共産中国が資本主義の市場経済を利用して経済成長という“うまい汁”をすっているのは覇権主義を隠した“擬態”だ。今や中国は世界第2位の経済大国となり、輸入・盗用の知的財産や製造技術・AI技術で米国や自由主義諸国を脅かす存在となった。

第3が「軍事の衝突」だ。まだ軍事力では米国が中国を上回るとされるが、すでに米国が中国を武力で一方的に打ち負かすことは不可能だ。その逆に中国が米国を一方的に打ち負かすことはなおさらあり得ない。したがって大国同士の戦いは起きにくい時代になってきていることは確かだ。しかし中国は近隣小国を脅かし領土を切り取っている。弱いものを虐げるのが中国の本性だ。

日本の専守防衛は絶対的な原則だが、ひところ消えたようにみえた「敵基地反撃能力」論議専守防衛の視点から再論議すべきだ。日米の同盟強化を中心に、日本一国としても中国にナメられない相当程度の反撃力を示せる自前の軍事力強化を図るべきだ。そのためにも、新政権でまともに憲法9条論議すべきだ。(2020・8・30 山崎義雄)