ババン時評 新政権でコロナ後時代へ

安倍首相の持病の悪化による突然の引退で、令和おじさんこと菅義偉自民党幹事長が後を継いで総理総裁になりそうだ。政治家たる者、総理の座を夢見たことのない者はいないだろうが、菅氏の場合はつい直近まで、総理の座が正夢になろうとは、まさに夢にも思わなかったろう。実現すれば、失礼だがタナから“ぼた餅総理”だ。

総理の座を目指してウン十年の雌伏期間を費やしてきた岸田氏、石破氏にしてみれば、それってあり?と言いたい思いだろう。こういう事態になったのは安倍首相の持病の悪化だが、政権にダメ打ちの一打を加えたのはコロナではないか。こうなってみれば内政外交両面で実績を残した安倍首相の長期政権ではあるが、その役割は失礼ながら平成時代から令和というコロナ後新時代に移行するための、時代の“橋渡し内閣”だったのではないか。

昭和時代は「予想を超えてうまく適応してきた時代」だったが、平成時代は「予想外に厳しかった時代」だった、と経済学者・小峰隆夫氏は言う(読売7・6 吉野作造賞受賞に寄せた感想)。その理由は、昭和時代は経済成長など欧米のキャッチアップで目指すべき方向が明確だったが、平成時代は金融危機、デフレ、人口減少など未知の課題ばかりであることだ。言い換えれば、昭和の課題は「外生型」だったが、平成の課題は「内生型」だった、と言う。

そして日本は、「外生型」の危機に対しては、横並びで火事場の馬鹿力とも言うべき対応力を発揮してうまく対応できるが、自らが引き起こした「内生型」の課題に対しては、責任とコストを分担し合いながら対処していくのが苦手だと指摘する。

その苦手な「内生的」課題を挙げれば、少子化対策、地方活性化対策、社会保障改革、安全保障政策などであり正に安倍内閣がやり残した課題である。これに「外生的」な課題である北朝鮮による日本人拉致問題、ロシアとの北方領土問題、中国の日本領侵犯などの難題が加わる。

さらに大きな難題は、おそらく後の世になって振り返れば歴史の転換点になっているだろうポスト・コロナ=コロナ後時代という未知の世界の到来である。その急激な社会変化に対応して新たな処方を模索し、諸課題の解を見つけなければならないだろう。新政権はその多難な新時代へのスタートだ。(2020・9・4 山崎義雄)