ババン時評 中ロの恩人・ルーズベルト

また中国、ロシアが「終戦75周年」を迎えて勝手なことを言っている。中国の習平国家主席は「抗日戦争勝利75年」を記念する講演で、「共産党は抗日戦争で大黒柱的役割を果たした」として、共産党の功績と統治の正統性を強調し、歴史問題では譲歩しない姿勢を示したという。

しかしその共産党の「大黒柱的役割」と「功績と統治の正統性」には疑問がある。戦争終盤に対日戦を戦っていたのは蒋介石の国民党軍だ。この蒋介石政権メンバーに、勢力をのばしつつあった共産党の代表を入れろと強要したのは米ルーズベルト大統領だ。この国共合策が破綻して国・共の内戦となった時、蒋介石は米国に軍事支援を求めたが得られず、共産党軍に敗れて台湾に逃れた。今に続く台湾の不幸の始まりである。

一方、ロシアも「対日戦勝記念日」とする9月3日にサハリン州で軍事パレードを行った。これに先立って、メドベージェフ国家安全保障会議副議長(前首相)は、「クリル諸島北方四島を含む千島列島)に日本が関与するのは無意味だ」として、領土問題で譲歩しない姿勢を示したという。

露政府は従来、戦争終結日としていた9月2日を今年になって9月3日に変更し、その法律にプーチン大統領が署名したという。日本がポツダム宣言を受諾して無条件降伏をしたのは8月14日だ。したがってロシアは、9月3日まで矛を納めず日本領土を攻略していたと改めて高言したことになる。

大戦終盤の1945年2月に米英露3カ国首脳によるヤルタ会談が開かれた。目的は「戦後レジーム」の策定だが、“本音”は敗戦国ドイツと日本の領土や権益について戦勝国の“分け前”を決めることだ。この時、米国のルーズベルト大統領と露のスターリンが「極東密約」を締結した。

その密約は、ソ連の対日参戦の“報償”として、千島列島、樺太朝鮮半島、台湾などの日本の領土や権益を大幅にソ連に割譲するという理不尽な約束だ。これについては1956年になって、米国国務省が「極東密約はルーズベルト個人の文書であり、アメリカ合衆国連邦政府の公式文書ではなく無効である」とする公式声明を出した。しかし手遅れで、この密約が以後ロシアの論拠となった

もしルーズベルトが(チャーチルも)蒋介石の国民党を支えていたら中国は赤い国にならずに済んだかもしれない。中国もロシアも火事場泥棒的な対日戦勝自慢をするより、感謝すべき大恩人のルーズベルト銅像でも建てたほうがよい。(2020・9・7 山崎義雄)