ババン時評 TVを席巻する“黄な声”

“黄な声”の話の前に、あるスーパーに勤める中年女性Kさんの話。Kさんはよく知られる会社を勤め上げて、年金までの間をつなごうとアルバイトに出ている。店長にも信頼されて実質的に店の中心となっている。そこに入ってきた30前後のアルバイト嬢、甲高い声でよくしゃべる。態度もはしゃぎ気味で落ち着きがない。Kさんは数日我慢していたが、ついにたまらず「うるさい」と叱責した。

彼女が店長に訴え、店長が飛んできて「我慢してくれ」と言う。Kさんは我慢した。彼女も少し反省した風がみえる。数日たったころ店長がKさんに話しかけた。「人間の階段を1段上りましたね」。これは彼女のことではなくKさんに言った言葉だ。店長は「我慢が大事ですよ」と言って去った。

それで思い出したのは(聞いた話か読んだ話か忘れたが)何十年か前の話。客が物言いのおかしな女子店員に注意したら、店長が飛んできた。詫びの一言もあるかと思ったら、「うちの子が泣いています。お客さん、何を言ったんですか」と詰問されたという。人手不足時代の1コマである。

ようやく本題の「黄な声=きなごえ」の話。黄な声はあまり耳慣れない言葉だが、ちゃんとした日本語だ。簡単に言えば黄色な声、甲高い声、癇(かん)にさわる声、未熟な声だ。国語辞典には女性や子供の甲高い声、などとある。太田蜀山人は、下手な義太夫語りのことを「五色の声」と言ったという。つまり「まだ青き素人(白)が玄人(黒)ぶって赤い顔して黄な声を出す」というわけだ。

コロナ籠りで漫然とテレビを見て過ごす時間が増えた。友人からの残暑見舞いはがきに「一日テレビ三昧、しかも楽しみは時代劇」とあった。友人は時代劇専門チャンネルで見るが、こちらは普通テレビ。新聞のテレビ番組でましな番組を探す。若者が大勢出てきてはしゃぎまくる番組が多く、高齢者向きの落ち着いた番組は少ない。テレビをつけっぱなしでいると、いつの間にかうるさい番組になっていることがしばしばある。言葉が荒い。バカ声を出す。甲高い声が耳にきつい。

近ごろとみに、若い芸能人だけでなく音声のプロであるはずのアナウンサーやナレーターなどまで、とりわけ女性の場合は中学生や高校生のような生硬で高いキーで喋るプロ?が増えてきた。高いキーだけでなくわざとのように声を裏返して聞き苦しい発声をする者も増えた。模範となるべき?NHKもいまや、というより大分以前から民放と変わるところがない。“黄な声”がテレビを席巻し、テレビが話し言葉をダメにする。何とかならないものか。(2020・9・14 山崎義雄)