ババン時評 菅首相の近隣外交ご苦労様

 菅新首相就任に際して各国首脳からお祝いと期待のメッセージが寄せられた。とりわけ、日本を取り巻く米中ロ韓が、新政権の誕生をどう見ているのか気にかかる。米中ロ韓の声明のポイントを拾うと共通するのは菅新首相に寄せる「期待」である。もちろんその「期待」の中身が曲者だ。

 米国は報道官を通じて、トランプ大統領は「安倍前首相と築いてきた自由で開かれたインド太平洋のビジョンを追求し続ける用意がある」と期待を表明した。安倍前首相の提唱した「インド太平洋連携」を日米共通の戦略目標として確認し、対中戦略の中心に据える意味は大きい。

 中国は、習近平国家主席が「積極的に中日関係を推進し構築すべきだ」とするメッセージを発表した。常に「核心的利益」は一歩も譲らないと高言する中国、最近では王毅国務委員兼外相が「米国は南シナ海で武力をひけらかし、中国とASEANの対話による紛争解決の努力を妨害している」と米国を批判した。この国が「中日関係を推進し構築すべきだ」というのである。これは両国で「中日関係を推進し構築しよう」というのではなく、日本が譲歩して「構築すべきだ」ということだ。

 ロシアのプーチン大統領は、「2国間や国際情勢で建設的な交流の用意がある」とし、「菅氏の豊富な政治経験が役に立つと確信している」と表明した。朝日新聞社説(8.11)が、(戦争終結時)日本領だったサハリン南部や千島列島、北方四島を占領したことが、今に続く領土問題となったと自明の指摘をしている。この北方四島問題には一歩も踏み込ませないというロシアに対して、菅首相はどのように「建設的な交流」を行い、「豊富な政治経験を」役立てればいいのだろうか。

 韓国は、文在寅大統領が、「いつでも対話する準備ができており、日本側の積極的な呼応を期待している」というメッセージを発表した。徴用工問題や慰安婦問題などでの韓国側主張を執念深く繰り返す韓国、最近では釜山の日本総領事館前に市民団体が無許可で設置した少女像に対して、無許可に対応するどころか昨年9月に市条例を改正し、道路占有を許可していたという(読売8・12)。その韓国に、菅新政権は「積極的な呼応」をしろという一方的な要請である。

 この不思議な国々と、どう「対話」し「積極的に呼応」し「関係の構築」にどう「政治経験」を役立てたらいいのか、日米を主軸とする「インド太平洋連携」の推進も含めて、“近隣有効国”とのお付き合い、菅首相にはご苦労様というよりない。(2020・9・24 山崎義雄)