ババン時評 「違憲]継承は許さぬ 朝日

毎度のことではあるが、朝日新聞(9・19)社説は『安保法5年 「違憲」継承は許されぬ』とする朝日らしい論説を掲げた。安全保障関連法成立から5年。「菅首相は安倍政権の継承を掲げるが、違憲性のある法律をそのまま引き継ぐことは許されない」といい、「安保法の制定は、7年8カ月に及んだ前政権が、法の秩序を棄損した最たる例である」とする。

さらに、安倍政権は、憲法専門家の反対意見や国会前デモのうねりを押し切り、巨大与党の数の力で強硬成立させたとし、熟議による合意が求められる民主主義の土台を壊したとする。この朝日論調は十年一日教条主義的空論だ。朝日好みの憲法学者には現実の世界を見る目がない。「熟議」が大事だと言うなら、国会論議を拒否する野党を責めるべきだろう。

一方で、取ってつけたように「安全保障環境が厳しさを増すなか、日本の平和と安全を守る手だてを尽くすのは当然だ」ともいう。その“手だて”とやらをぜひ踏み込んで説明してもらいたい。いま、その重要な“手だて”の一つとして、現実の安全保障環境のもとで敵基地攻撃能力の保有が検討課題になっている。しかし朝日は、敵基地攻撃能力の保有専守防衛の原則から逸脱する恐れがあるとして否定する。国が「民主主義の土台、熟議による合意」にとりかかる前に反対しているのだ。

朝日は、『安倍氏は先の談話で、「憲法の範囲内」で「国際法を順守」しつつ「専守防衛」は変わらないと述べた』とか『安保法の審議の際も、敵基地攻撃について「想定していない」と言明した』ではないかと“恨み言”を言っている。しかし朝日自身が、「イージス・アショア」がダメになったから敵基地攻撃能力の保有問題が浮上した、と説明しているのだ。その通り、現実は変転するのである。

それにしても「違憲」継承は許されぬ、という断固たる社説の結論は情けない。「日米同盟を基軸としつつ、近隣外交の努力を深め、信頼醸成をはかることこそ、地域の安定に資する。米中の覇権争いが激しさを増すなか、日本に求められる役割を見失ってはいけない」と宣うが、日米同盟重視は社説全体の論調にそぐわない。近隣外交の重要性は言わずもがなであろう。

さらに言えば、近隣外交での信頼醸成は、「日本の平和と安全を守る手だて」としては“必要条件”だが“十分条件”たり得ない。敵基地攻撃能力の保有は、結果がどう出るにせよ喫緊の課題として前向きに検討すべきだ。おそらく多くの国民がそれを望んでいるだろう。(2020・9・30 山崎義雄)