ババン時評 話にならない中国の理屈

いつものことだが、中国の言い分は手前勝手で不可解だ。先ごろ、コロナ下のためにオンライン方式で行われた東南アジア諸国連合ASEAN)関連の首脳会議で、米国・トランプ大統領の代理として出席したロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官が中国を名指しで強く批判した。すなわち「中国の行動が南シナ海の平和と安定性、周辺国の主権を脅かしている」というのである。

これに対して中国・李克強首相は、「中国は南シナ海の平和と安定を守ると強く決意しており、国際的な舞台での法の支配を擁護し、推進している」と主張した。なんと米国は「中国が平和と安定を脅かしている」と言うのに対して、中国は「南シナ海の平和と安定を守る決意をしている」と言うのである。周辺国の島々を占拠し軍事基地化を進める中国の恬として恥じない強弁はあきれるほかない。

日本の場合は、いまや中国海警局の船による尖閣諸島の接続水域への侵入が日常化、常態化している。自国領の釣魚島(尖閣諸島の中国名)をパトロールするという名分で数隻の中国船が島の周辺を数日にわたり“回遊”する。中国船と島の間をさえぎるように日本の海上保安庁の船が入って中国船の回遊に付き合う。しかし実力で接続水域の外に追い出すことはやらない。やれない。この危ない均衡がいつまで持続できるか、予断を許さない。

尖閣に限らず、中国海警局の大きな船が出没して日本の漁船を脅かす。いまや中国の漁船さえも“海上民兵”化していると言われる。ベトナムの漁船が中国船の体当たりを受けて沈没させられた例もある。日本の漁船もニアミス状態を繰り返され、戦々恐々で次第に“危険水域”への出漁を諦めざるを得ない状況になっているという。

今年の上記主脳会議の議長国は、中国批判の急先鋒であるベトナムであり、日本やフィリピンなども中国への懸念を表明したが、あまり牽制強化の成果は上げられなかったようだ。今年の中国は南シナ海にミサイルを発射し、派手に軍事演習をやった。来年も活発に周辺国の島々の軍事拠点化を進めるだろう。こうした動きをしながらも中国は「国際的な舞台での法の支配を擁護、推進している」と言う。この話にならない中国に、菅首相とバイデン米新大統領による日米安保体制はどう対処するのだろうか。(2020・11・18 山崎義雄)