ババン時評 正直者はバカをみる?

コロナ対策で、国がいろいろな支援金をバラ撒いている。そして案の定、その支援金の不正受給が増えている。コロナで落ち込んだ観光需要を喚起するための「Go To トラベル」事業で、利用者に発行される「地域共通クーポン」を不正に受給するケースが続発した。観光地のホテル予約を無断キャンセルして、ゲットしたクーポンを別の買い物や飲食に使うらしい。

例えば先ごろ、藤沢市の男がクーポン詐取で逮捕された。報道によればその男(本名公表)は、東京都内の4つのホテルに虚偽の名前や住所で予約し、電子クーポン約54万円分をだまし取った。ホテル側の宿泊費用の被害は総額約500万円に上った。男は詐取したクーポンを使い、神奈川県内でスマートフォンやゲームソフトなどを購入していたという。

さらに、コロナによる売り上げ減少で苦しむ中小企業や個人事業主を救済するために国が支給する「持続給付金」の不正受給が相次いだ。企業家がこれをやるというのが情けない。この不正受給を指南して手数料を稼いだとして逮捕されたその道のプロもすでに数十人に上るという。大学生が個人事業主に成りすまして不正受給した“事件”もニュースになった。

古い手口では、生活保護や失業保険の不正受給がある。生活保護では、所得を隠しての不正受給から暴力団員や中国人による不正受給、ホームレスを定住させて不正受給とピンハネを行う生活保護ビジネスなどがあり、福祉事務所職員の“不正支給”による不正受給まである。だがこうした古いかたちの不正受給は手続きがけっこう難しくて専門家?の手を借りなければならなかったりするが、コロナ関連の不正受給は素人さんでも「魔が差す」ほどに簡単なのだ。

国による観光支援が必要ないとは言わないが、観光関連事業者を支援し、国民の旅行を奨励し、便宜を図ることがはたして政府の仕事か、それが重要なコロナ対策かとなれば首を傾げざるを得ない。そのためにカネをばらまくような政治を続ければ、やがて事業家が国の支援を当てにしたり、個人的にも公金に寄生したり詐取する不心得者が増殖しかねない。

それでなくてもこのごろなんとなくズルをする不心得者が増えてきているように思われる。昔から言われた「正直者はバカをみる」というのは、皮肉であったり自嘲であったり、そうであってはならないという反義語だった。その「正直者はバカをみる」がモロに信じられる世の中になっては困る。正直者の日本人がズルくなっては情けない。それを政府が助長するようなことがあってはなるまい。(2020・12・1 山崎義雄)