ババン時評 「電子」と「紙」の勝負

今の世の中、あれもこれもデジタル化の時代である。ペーパーもハンコも時代遅れというわけだ。デジタル庁が発足すればまずは行政事務からデジタル化が始まるだろうが、ヘタをすると「マイナンバーカード」の普及などで終わりかねない。なにしろ民間レベルではまだまだデジタル化に抵抗感を覚える向きが少なくない。とくに中高年層にはデジタルに抵抗感がある。

卒寿を迎える大先輩が世にならって「簡単スマホ」を購入した。手書きで長文の手紙をマメにくれたり、工学書編集の手伝いをやったりする“ペーパー派”の先輩にとっては簡単スマホも簡単ではなかった。第一、説明書の記述がスマホ用語の羅列でよく理解できない。

スマホは敏感で、軽くキーに触れただけで動作する。操作中に別の画面が出てくる。打った文字がキーボードの後ろに隠れて見えなくなったり、勝手に文字盤が左へ寄ったり、どこを操作しても画面が元に戻らなくなったりする。電話やメールの習得だけで大分苦労したらしい。

友達からLINEの誘いが来る。あちこちいじり回していたら友人の方からメッセージが入り、それで友人とはやり取り出来るようになったが、文字のみで写真はムリ。老人にとっては若い者のようにいじって使いこなすより、まず頭で理解して、それから機械を扱うということになる。アナログ思考人間の高齢者には、アナログ感覚のマニュアルが欲しい、と先輩は嘆く。

老人だけの問題じゃない。読売新聞(12・2)で、教育のデジタル化が進む豪州で、ある小中学校が5年間続けてきたデジタル教科書をやめて紙に戻した。「紙の教科書を読み、自らノートに書き込む方が学んだ内容をしっかり記憶できる」と関係者が語っているという。

日本でも、文科省が14年度に小中学校7校で、タブレット端末の活用効果を検証したが、デジタル教科書と学力の関係ははっきりしなかったようだ。平井デジタル相は教科書はデジタルにすべきだと言っているらしいが、紙と電子媒体の違いを研究する群馬大学柴田博仁教授は、「情報の全体像をつかみ、考えを深めるにはデジタルより紙が優れている。子供の思考力を育むにはデジタル教科書は不向きだ」と強調しているという。

総じて教科書は紙媒体の方に軍配が上がりそうだ。だが、「電子」と「紙」の勝負はどちらが勝つかという問題ではないだろう。常識的に考えれば、いかにデジタル社会到来とはいえ、実社会での暮らしの場で考えれば、やはり紙が主体でデジタルは補完的な役割というあたりが現実的ではないか。そのあたりでデジタルの有効な活用を考えるべきだろう。(2020・12・6 山崎義雄)