ババン時評 日本女性は強くなったのか

近ごろ、なぜか女性の自殺者が増えているという。それで連想ゲームのように思い出したのが、私ではない!口の悪い友人が酒の席で言った、「このごろ威勢の良い説教ばあさんが増えた」というけしからん放言だ。そしてたちどころに数名の著名な女性作家名と人生訓めいたエッセー集の作品名を挙げた。

そして、その友人が真っ先に挙げたのは佐藤愛子さんである。いま97歳におなりらしい佐藤さんの近刊は「何がおかしい」であり、たしかに挑戦的だ。佐藤さんの、4年前に出した「90歳。何がめでたい」は出版翌年の出版物の総合で年間ベストセラー第1位になっている。その時佐藤さんが版元・小学館に寄せたコメントがネットにある。

いわく、「この本を読んで勇気をもらった、元気をもらったという人が多いそうですが、私は自分が思ったことを書いているだけなので、どうして読んだ人が勇気が湧くんだか私自身にはわからないんです。私は昔から同じように好き勝手書いてきて、かつては顰蹙(ひんしゅく)を買ったり悪し様に思われたりしていましたから。それが、時代が変わって、顰蹙じゃなくて勇気となった。日本人がずいぶんと変わったんだなぁと思いますね」-と言っておられる。

たしかに日本人は随分と変わった。とりわけ佐藤さんら女性作家や女性代議士などを筆頭に、華々しく活躍する女性が増えているのだから、女性が強くなった―と思っていたのだが、果たして本当にそうなのだろうかと、近ごろ疑わしくなってきた。たとえば、民間企業の役員を男女同数にしようと国がおせっかいを焼いてもなかなか女性役員が増えないようだ。それどころか今、新型コロナの影響による女性の自殺者が増えている。

具体的には、失業で生活苦に追い込まれた一人暮らしの女性や、コロナ籠りで暴力を振るうようになった夫や同居人と暮らす女性が、厭世的になって死を選ぶとか、有名芸能人の相次ぐ自殺が、弱い女性を自殺に誘導する引き金になったりする。9月下旬に有名女優の自殺があった後の2週間、30~40歳代女性の自殺者が倍増したという。

こう見てくると、現代の女性は強くなった、とは言えないのではないか、と私の意見を酒の席で言ったら、また例の口の悪い友人が「今どきの女はズルくなった」と混ぜっ返してきた。それでもいいではないか。ズルくなってでも生き抜いて、間違っても死を選ぶべきではない。友人の言う「威勢の良い説教ばあさん」佐藤愛子さんの「何がおかしい」精神で、重く抱えている心のウツを散じてもらいたいと願う。(2020・12・19 山崎義雄)