ババン時評 東北気質でひと踏ん張り!

自民党総裁谷垣禎一さんが、「党内で疑似政権交代」を行ってきた自民党の強みを語る中で、ひと言菅首相について触れ「苦労人は違うな、温かみがあるなという感じはまだ出ていない」と語っている(読売 1.4)。谷垣さんらしい温かみのある人物評だが、どうだろう。

押しも押されもしない名官房長官だった菅義偉氏の印象にそんな温かさは感じられなかった。逆に苦労人の重みと冷静さがあった。記者会見の受け答えには感情を表に現わさない安定感があった。記者を指さして発言を促す表情には時としてニヒルな印象さえあった。

そうした苦労人の重みと冷静さ、時にニヒルな印象は、高級官僚をビビらせるには効力があっただろう。しかし首相になっても菅さんにつきまとうそんな印象は、独裁国家や途上国ならいざ知らず民主国家で“国民人気主義”日本の政治首班にはふさわしくない。昔なら大店の大番頭で、奉公人を仕切るには向いているだろうが、風格のある大旦那様にはふさわしくない。

とはいえ昨日の名官房長官から今日の首相イメージにいきなりチェンジすることは容易ではない。人間の本質は変わりようがないのだから時をかけてもイメチェンは不可能かもしれない。安倍前首相は官房長官も首相もコナしたが、幸いにも、変えずに済んだ「本質」を持ち合わせていたということだろう。菅首相には気の毒だが、ここは秋田仕込みの「地」で行くしかないのではないか。

民主党の最高顧問を務めた故渡辺恒三さんはきつい会津訛りで、「キョウノチョウカン」と命じられた秘書は警察庁長官に電話を繋いだが、注文は「今日の朝刊」だった。むかし日本社会党党首だった宮城出身の佐々木更三さんもズーズー弁で「日本社会党」は「ぬっぽんしゃがいどう」になった。演説は「ぬっぽんしゃがいどうどいだすますては(いたしましては)」となった。

渡辺さんと共に民主党の最高顧問を務めた小沢一郎さんは岩手だが、東北訛りがないところは菅首相と同じで、慎重で口の重いところも東北人共通の特徴だ。とはいえ、東北人も頑固で無口な反面、酒が入ればハメを外して饒舌になる。しかし菅首相は甘党で下戸、小沢さんも体質的に酒は嫌いらしいから酒で饒舌になることはない。代わりにネクラの印象が強まる。

コロナ災害のさ中にネアカの安倍元首相からネクラの菅首相に交代したのは天の?ミスキャストで、我が国にとって不幸だったかもしれない。しかしここは東北人の粘り強さと誠実さでひと踏ん張りして新型コロナの難局を切り抜けてもらいたい。(2021・1・15 山崎義雄)