ババン時評 悪玉トランプVS善玉バイデン

トランプ前大統領は、メキシコとの間にヘイを作り、自国第一の保護主義経済をやってみたが、いたずらに国際摩擦を起こし、支持層の中核である白人中間層の雇用回復期待を裏切っただけ。何の効果も上げられず、大統領選に敗れて退場するハメになった。

もちろんいまだに内外で、トランプ評価の声もないではない。トランプ氏はさほどの富豪でないことは確かで、その上、大統領職の収入を外部への寄付金に回したりした。しかし大方の見方ではトランプは名誉欲と利益追求の商売人であり貧者の味方ではなかった。

一方、トランプに代わるバイデン新大統領はというと、こちらも安易に貧者の味方だとは言えそうにない。宮崎正弘 渡辺惣樹『戦後支配の正体』(ビジネス社)で、宮崎氏は「ジョー・バイデンと中国ロビィとの結び付きは、じつに怪しい」と言う。

そして「だいたいオバマ政権はズブズブのパンダハガー親中派)が多かった。当時副大統領だったバイデンもヒラリーも、ヒラリーの後釜のジョン・ケリー国務長官も、中国利権には目がなかった」と言い、バイデンの息子の中国ビジネスの具体例なども挙げる。

また渡辺氏は、「民主党といえば、日本ではリベラルで弱者にやさしい政党だと勘違いしている人が多いが、もともとは人種差別的政党です。19世紀半ばの時代、民主党の基盤は、南部白人層、つまり奴隷労働経営者層です」として南北戦争からの流れを指摘する。

さらに渡辺氏は、民主党が今のような「弱者のための政党」に変身したのは第2次大戦後、民主党の支持層だった中間白人層が相対的に豊かになって共和党支持に移っていったからであり、新たな票田となる弱者が必要だったからとする。これに宮崎氏が、「弱者=少数者」ならいくらでも作れると言い、黒人、移民、少数民族、女性など、と付言する。

こう見てくると、トランプ前政権下で大きく分断された米国社会は、トランプの個性と独断だけから生じたものではなく、歴史的背景があったからだと言える。それだけにバイデン大統領が、国民意識の分断を修復して融和を取り戻すことは容易ではない。国際協調と同盟重視の方針も、対中国政策1つ取ってみてもバイデン氏がどこまで強い姿勢を取れるのか、予断を許さない。悪玉トランプVS善玉バイデンの歴史的評価はまだ先だ。(2021・1・25 山崎義雄)