ババン時評 捉えどころのない幸福感

人によって「幸福感」は千差万別だ。「幸福」は捉えどころがない。国が富み、国民1人当たりGDPが高ければ幸せか。先進国の現状を見れば、環境を破壊し、犯罪が増え、精神を病んでいる。国富や国民の富が必ずしも国民の幸福にはつながらない。そこで注目されるのが、国民の大半が幸福だと感じているという小国・ブータンなどの例であり、同国の国民総幸福量(GNH)などの考え方だ。

ブータン王国は、中国とインドに挟まれた人口76万人で九州ほどの広さの小さな国。現在の第5代国王ジグミ・ケサルご夫妻が国賓として2011年に来日し、大歓迎を受けた。1人当たりの国民総所得は1,920米ドル(世界銀行、2010年)だが、衣食住を保障され、仏教を信じる農業国である。

同国の幸福指標GNHは、経済成長を重視する姿勢を見直し,伝統的な社会・文化や民意、環境にも配慮した「国民の幸福」の実現を目指す考え方だ。その背景には仏教の価値観があり,環境保護,文化の推進など4本柱のもと,9つの分野にわたり「家族は互いに助け合っているか」「睡眠時間」「植林したか」「医療機関までの距離」など72の指標がある。

話は変わり、国連による2020年版の「世界幸福度報告書」では、世界幸福度ランキングの首位は3年連続でフィンランド。日本は62位で年々後退している。ランキングは、2012年に第1回が発表され今年が7回目。調査対象は153カ国・地域。調査内容は、「一人当たりGDP」「健康的な平均寿命」「困ったときに助けてくれる友達・親族の有無」「人生で何をするか選択の自由度」「寄付実施者の度合い」「政府機関に腐敗の度合い」「昨日楽しかったかどうか」などである。

幸福の研究は日本でもやっている。内閣府の幸福度に関する研究会は以前、我が国においては特に所得の増加にも関わらず主観的幸福感が低いとして、これが我が国固有の課題だと指摘している。また主観的幸福感を判断する際に重視すべき項目は、年齢性により差異があり、子供や青年には友人が、成人には家系や家庭が、高齢者には健康が大きく関わってくるとも指摘している。

簡単に言えば「幸福」とは心が満ち足りていることだが、これが簡単でないから古来、哲学者や思想家・宗教家が思索し、近来では精神医学や経済学・統計学まで動員して“模索”し続けている。結局は、それらの研究成果はさておき、個々人は自分の問題としてそれぞれの覚悟と信念を持って、なるべく「心が満ち足りる」生き方を心掛けるしかないのではないか。(2021・2・1 山崎義雄)