ババン時評 日米協調に水を差す日本?

米のバイデン政権は、予想に反して?意欲的に対中包囲網の構築を進めている。ブリンケン米国務長官は、中国による新疆ウイグル自治区における人権侵害について、「集団殺害(ジェノサイド)」ありとまで明言した。中国包囲網に欧州も同調し、米国、欧州連合EU)、英国、カナダが、中国・新協ウイグル自治区中国当局者への制裁を決めた。

ところが日本政府は、この中国による人権侵害に対して判断を留保し、対中制裁に慎重な姿勢を示していると報じられる。茂木外相は「それぞれの国がとり得る策は違う。何が有効かはそれぞれが考えながら、(中国に)働きかけをしていくことが重要だ」と言い、外務省幹部は、わが国は「ジェノサイド条約」に加盟していないとか、「人権弾圧の事実を確認できていない」などと言い訳をしている。これでは米国の事実確認を信じないというに等しいではないか。

問題の新疆ジェノサイドの事実確認はトランプ前政権の時からなされているとも言われ、半ば公然の事実だとさえ言われる。民間研究者の調査でも、国家統計の『中国統計年鑑』に、うっかり?載せたらしいデータに、新疆の人口が漸増する中でトルコ系の少数民族の人口だけが激減しており、「職業訓練施設」に収監されて帰ってこない人数の多さとの関係が注目されるなどの疑問があるといわれる。おそらくバイデン政権は確証のあるジェノサイド事実をつかんでいるのではないか。

ピーター・ナヴァロ著『米中もし戦わば 戦争の地政学』(赤根洋子訳 文芸春秋)は、日本の取るべき道の選択を検討した上で、『残るは「ぶれない同盟国」シナリオだが、これがマシかどうかは、日米の軍事同盟強化に中国がどう反応するかにかかっている。中国は探りを入れ、弱点を見つければ前進してくる。進んでみて相手が強いと見れば撤退する。カギは、米国のアジアに対する熱意と決意である』と言っている。

その米国の「熱意と決意」に、最強コンビであるはずの日本が水を差しているのだ。要するに日本は、欧州諸国も協調する中で、米国が人権重視外交で鋭く踏み出した新疆ウイグル・ジェノサイド糾弾に対して、しかも「ジェノサイド条約」に加盟しながらジェノサイドを繰り返している鉄面皮の中国に対して、何の力もない弱気な理屈で二の足を踏む反応を示しているのだ。

中国は今回の思いがけない?日本の反応を、日米連携に「スキあり」と捉えて自信を強めるだろう。「弱点を見つければ前進してくる」中国がこれを外交戦略に活かさないはずがない。日本は中国にジェノサイドありとした米国の判断とその根拠を信じて、改めて新疆ジェノサイド糾弾を是とし、日米同盟の揺るぎない姿勢を中国と世界に示すべきではないか。(2021・4・9 山崎義雄)