早くから問題が見えていたのに、何ら有効な手を打たずにいた、というより打てなかったのが、少子高齢化による人口減と労働力不足の解消策だ。フランスの歴史・人口学者のエマニュアル・トッドさんは、30年以上も日本に向けて事の重大性を警告してきたが、受け入れられなかったと嘆いている(鶴原哲也 編『自由の限界』中公新書クラレ)。
もちろん日本が全くの無為無策で長い年月を過ごしたというわけではない。日本は日本なりに、作業の自動化、ロボット化、AI化、それに高齢者や未就労女性の労働力活用策、そして輸入労働力の受け入れなど、それなりに労働力不足の解消策に取り組んできたが、問題は解消しなかった。
安倍前首相は2018年の国会で、移入労働力について、あくまで「労働力」を受け入れるのであり、「一定規模の外国人と家族を、期限を設けることなく受け入れて国家を維持しようという移民政策は採らない」と説明した。しかし「労働力」だけを受け入れることは不可能だ。現実には、「労働力」を持った「人間」を招じ入れるのである。
前出のトッドさんは、人口危機は数十年の潜伏期をへて発現し、一気に激化する。出生率の低下が何十年も続く日本は今や危機に瀕している、と警告する。そして日本のために3つの提言をする。その要点は、①外国人労働者はいずれ国に帰ると考えず、常に移住者になると覚悟すること。②外国人労働者の出身国を多元化すること。③多文化主義は取らないこと―。
トッドさんの提言①は、前出の安倍前首相の(ような)考え方への警告である。②では、たとえば中国の場合は国外同胞との関係を維持する政策をとるだけに、日中戦争の歴史も絡んで厄介になる。韓国人は、日本に支配された歴史の遺恨がありやはり難しい。複雑な因縁のないベトナム、フィリピン、インドネシアを優先するのがいいと言う。③では、第一世代はダメでも、移民の2代目、3代目で日本語・日本文化に同化させる息の長い同化主義をとるべきだと言う。
2年前に「ババン時評 外人労働力の裏表」を書いた。そこで、外国人労働力の受け入れは『ややこしい国際問題になる恐れがある。場合によっては韓国との徴用工問題の“変形”ともなりかねない。「労働力」の受け入れなどと安易に考えずに、「外人労働力」の扱いは「日本人労働力」以上に難しい問題だ』と書いた。トッドさんはその代表に中国、韓国を挙げる。
何よりも移入労働力、そして移民受け入れは、人手の補充策問題ではなく、民族の混交という国の根幹を揺るがす問題だ。それでも移民政策を取らない限り日本の将来がないとするなら、トッドさんの明快な提言を本気で受け止め、受け入れる他民族への息の長い同化政策を含めて、政策化し具体化すべきではないか。(2021・5・5 山崎義雄)