ババン時評 外国人が日本人になるまで

日本の将来にとって一番の問題は、少子化による人口減少であり、日本が“自力”で人口を増やせないとすれば、有効な解決策は移民の受け入れしか方法がないということになりそうだ。そしてその人たちにどのように日本社会や文化に溶け込んでもらうかということが問題となろう。先に、「移民受入れ以外に未来なし」と書いた。その続きがこの小論である。

まず、1つの新聞記事を紹介したい。読んだ人も多いだろうが、『名はマリアンヌ「私は誰?」』という記事が読売に載った(4・11)。スウェーデン人の母と米国人の父を持ち、日本人の養父母に育てられたマリアンヌ・ウイルソン黒田さんは今71歳。日本に根を張って生きている。記事は『あれから 戦後日本「碧眼の孤児」』として報じられたもの。

米国人で軍属だった父は、マリアンヌさんが生まれる前に帰国。母は出産後わずか1年で死去。マリアンヌさんは日本人の養父母に預けられ大事に育てられる。1956年、6歳の時、母の母国スウェーデンがマリアンヌさんの「引き渡し」を求める訴訟を起こした。「マリアンヌちゃん裁判」と話題になった。一審の帰国判決に養父母が控訴したが2審判決も変わらなかった。

マリアンヌさんは準備期間を与えられ、横浜のインターナショナルスクールで語学を学び、大使館関係者の家でスウェーデン生活様式を身につけた上で、20歳の時、スウェーデンに渡る。現地の大学を出て就職するが、養母の病気で25歳の時、日本に戻る。

後年、米国に帰った父が、米国の上院議員に母子の米国籍取得を訴えた手紙が発見され、父が妻子と一緒に米国で暮らそうと議会に掛け合っていたことを知った。養母が死の間際に、米国の父から日本の母にあてた手紙を、密かに焼き捨てたと涙ながらに謝ったこととつながった。その後、ルーツ探しに取り組んだマリアンヌさんは、祖父の母と祖母の母、つまり2人の曽祖母の夫がいずれも日本人だったことを寺の資料などで突き止めた。

マリアンヌさんも日本人と温かい家庭を持ち、日本とスウェーデンの国籍を持つ。今、マリアンヌさんは英語講師をしながら地元区役所の外国人生活相談員をしているという。そして、相談相手によっては、日本に住みたかったら日本語と日本文化を学習しなさいとアドバイスする。

先に引用したフランスの歴史人口学者エマニュアル・トッドさんは、移民の第一世代はダメでも、2代目、3代目で日本語・日本文化に同化させる息の長い同化主義をとるべきだと言っている。そして言う。人口危機は数十年の潜伏期を経て発現し、一気に激化する。出生率の極めて低い状態が何十年も続く日本は今や危機に瀕している。移民を排除して「日本人どうし」に固執する先には衰退しかないと断言する。外国人が日本人になるまで、穏やかな日本化を提唱するトッドさんの声を頂門の一針として聞くべきではないか。(2021・5・15 山崎義雄)