ババン時評 どんぐり国家の背比べ

何年か前に、「〇〇の品格」という題名の「品格本」がブームになったことがある。そのはしりは浮ついた品格本とは一味も二味も違う、藤原正彦著『国家の品格』(新潮社)だ。同書の主張は、「グローバル化」という低俗な世界の均質化を拒否して日本の矜持を示せというところにある。そのポイントは2つ、豊かな「情緒」と毅然とした「形」だ。

ぜひそんな日本を世界に、とりわけ近隣諸国に示したいものだが、どうも近ごろの日本はどこかおかしい。『国家の品格』が期待する国のリーダーたちからして、おかしくなっている。近年、贈収賄で逮捕される政治家が後を絶たず、目下のところでは、元経済産業大臣菅原一秀氏が、有権者に香典や現金を配った疑いで東京地検の捜査を受けたことで議員辞職に追い込まれた。

政治家が政治家ならお役人もお役人で、総務省の幹部が、放送事業会社の東北新社やNTTなどの接待を受けたことで、結局、32人が述べ78件の接待を受けていたことが判明した。特に重い処分を受けた幹部らは、「東北新社の法規違反を認識していた可能性が高いにもかかわらず」、ご馳走になって口を拭っていたらしい。―と検証委員会は指摘している。

足元でこんな情けない政官界の不祥事が起きている時に、自民党二階俊博幹事長が、ご丁寧にも菅原議員の辞職に絡めて、(昔はひどかったが)「政治とカネの問題は随分きれいになってきた」などと発言するものだから、世論の総スカンを食らった。

一方、海外に目を転じれば、韓国のレイムダック化する文在虎政権の下で、開発予定の土地を投機買いした公務員ら34人が逮捕された。なんと疑惑を受けて書類送検された者は529人に上るという。既視感のある韓国らしい不祥事だが、いま文政権の支持基盤を揺るがしている。

次いで中国では、狡猾なワクチン外交が展開され、モンゴル自治区でのジェノサイド(大量虐殺)疑惑が報じられている。そんな折りに、習近平国家主席が、党高官の集団学習会で、対外宣伝に触れ、対外発信では謙虚であることを求め、「信頼され、愛され、慕われる中国のイメージ」の形成に努力するよう命じたという。「戦狼(せんろう)外交」と呼ばれる攻撃的な発信が定番の中国の対外宣伝が、いきなり急カーブを切るというのか。しかも中国公船の尖閣侵入で記録を伸ばしながら―。

国家の品格」では、日本にも江戸から明治までは豊かな教養を身につけたエリートがいた。英仏には今でもいる。彼らは女性スキャンダルを起こしはしても、国民に奉仕する気概を持っているから賄賂や汚職はまずやらなかったという。そして日本は情緒と形を取り戻せと警告する。願わくは、日中韓隣組国家の間で「どんぐりの背比べ」だけはしたくないものだ。(2021・6・6 山崎義雄)