ババン時評 文政権の迷走と決別した判決

今回6月の、元徴用工らによる損害賠償請求を却下したソウル中央地裁判決は、ようやく文政権の迷走から決別した判決だ。つまり文大統領がシナリオを書いたといわれる2018年の韓国大法院(最高裁)による賠償命令判決を真っ向から否定する判決となった。

特に、今回の判決で注目されるのは、判決の理由の中で、「漢江の奇跡」と呼ばれる1960年代以降の息の長い韓国経済の高度成長を挙げたことである。判決文にこんな事例が出てくることはまずないと思うが、これは徴用工側、弁護団の作戦ミスによるものではないか。

つまり、元徴用工の請求権が解決されなかった理由の1つとして、日韓協定に基づく日本の経済協力が少なかったからというおかしな理屈を徴用工側が訴状においてこねたらしい。そこで裁判所側は、日本の5億ドル支援が「漢江の奇跡」を生んだと、心ならずも?日本の肩を持つ結果となった。

ついでに言えば、韓国は朝鮮戦争で国力が疲弊し、北朝鮮にも劣る世界の貧困国となった。その韓国が息を吹き返したのは、ベトナム戦争の特需と1965年の日韓基本条約を契機とした円借款によってである。ベトナム戦争では韓国軍の参戦と民間特需で10億ドルほど外貨を獲得した。

韓国軍のベトナム参戦は米国の要請ではなく時の朴正熙大統領から米国への依頼によるものだったと今では言われている。徴用工に学んだわけではなかろうが、国を挙げての出稼ぎである。慰安婦も大勢ベトナムに行った。とはいえベトナムでの外貨獲得は韓国国民が稼いだものだ。

一方の、1965年の日韓協定に基づいて日本が供与した5億ドルは、朴政権がまるまる経済復興に投入できる財源となり、日本の技術援助とあいまって60年代以降およそ25年にわたって韓国経済の高度成長を支援した。これについては、2017年の時点でも、当時の朴正熙政府で首相だった金鍾泌氏は、韓国の経済再建は、日本の請求権資金に頼るしかなかったと述懐している。

何かにつけて「日本の原罪」的に歴史問題を振りかざす韓国だが、世界の常識である「漢江の奇跡」、日本の経済支援は日韓の歴史問題ではないらしい。今回の判決を出した判事が国民の脅迫めいた非難を浴びているという。しかし今回の徴用工判決は、「完全かつ最終的」に請求権問題を解決した日韓両国の合意という原点に立脚した判決であり、文大統領の迷走と決別した勇気ある判決だと言えよう。(2021・6・12 山崎義雄)