ババン時評 運と偶然に感謝する人生

誰の人生にも、運不運が付きまとう。人生の折々に遭遇する問題を正しく判断し、適切に処理することは容易ではない。先に、当欄で「気にし過ぎるな運の良し悪し」に関して、ローゼンタール著『それはあくまで偶然です』を引用した。そこでは統計軽視の偶然論だけを拝借したが、今回はもう少し同書から学び直したい。私流の管見で同書の教えを解釈すると「物事の判断を誤る原因」と「物事の処理にしくじる原因」には、およそこんなことがありそうだ。

まず「物事の判断を誤る」原因では、①「バイアス(先入観)のかかった観察」すなわち自分に都合のいい見方や思い込みで判断を誤るケース、②「偽りの報告」すなわち他人による報告や伝聞を信じて判断を誤るケース、③「プラシーボ(偽薬)効果」すなわち信心や迷信でモノの見方や判断を誤るケース、④「ランダムな運」すなわち原因のない出来事に原因があると深読みして判断を誤るケース、などがある。

次いで「物事の処理にしくじる原因」では、①「特大の的」すなわち処理の狙いが間違っていてしくじるケース、②「隠れた助け」すなわち自力による処理をやらず他に助けを求めてしくじるケース、③「ランダムな運」すなわち最初からランダムな「まぐれ当たり」を狙ってしくじるケース、④「散弾銃効果」すなわちどれか当たるだろうと手数を増やしてしくじるケース、など。

上記の「物事の判断を誤る例」に2016年のアメリカ大統領選があり、トランプの当選を、CNNニュースのコメンテーターは「我が国のさまざまなものに対する“拒絶”だった」と分析した。調査機関はそこを読み取れず、調査手法に落ち度はないという「バイアスのかかった観察」で予測を誤った。そして選挙前の支持率をクリントンが4%優勢と読んだが、本書の著者の分析では0.4%の僅差だった。トランプ支持者には調査機関の調査まで“拒絶”した者がいたということだ。

また「物事の処理にしくじる例」では、理由のない「ランダムな運」すなわち「まぐれ当たり」を狙ってしくじる例として「宝くじ」を挙げる。ジャックポッド(高額配当、大当たり)を得るために人々はいろいろな工夫やまじないなどをやるが、当たる確率は低い。アメリカの「パワーボール」という宝くじを1枚買った場合の、当たる確率は2億9200万分の1だという。それなのに宝くじ研究は盛んである。

とはいえ、著者自身も運と偶然の効用を否定しない。自分がひとかどの?学者になれたのは自分の努力や能力だけではないと言い、自らの出自に始まり、大事な人や研究テーマとの出会いなど、これまでの運に恵まれた半生を披歴し、人間味あふれる視線で世間を観察している。我々も著者にならって自分の来し方を振り返り、多少なりとも感謝すべき「運と偶然」の事実を再確認できれば、もう少し幸せを感じられるのではないだろうか。(2021・6・15 山崎義雄)