ババン時評 コロナが支援する経済対策

コロナ下で国民は外出も控えて逼塞させられているのに、国の経済は回復している。回復のリード役は、世界の景気回復基調を背景として輸出を伸ばしている製造業だ。その一方で、コロナに痛打されているサービス関連業の業況悪化が景気の足を引っ張っている。その結果、20年度の個人消費需要は34兆円ほど落ち込むと見られ、それを補うために3度も補正予算が組まれた。

しかし、第1弾の需要刺激対策だった全国民への一人当たり10万円の一律給付は見事に失敗した。10万円は貯蓄に回され、足元の消費を刺激する効果は出なかった。補正予算が組まれる度にもう一度一律給付が欲しいという不心得な?声も少なくなかったが、政府は、サービス産業救済に方針を切り替えた。不況に苦しむサービス関連業者は、給付金を内部留保せずすぐ支出する。これは間違いなく足元の需要を刺激する。

経済のイロハだが、経済政策・景気対策には財政政策と金融政策がある。簡単に言えば前者は国が財政支出でカネを使うか、後者は日銀中心で民間に通貨を供給し、民間にカネを使わせるか、ということだ。もちろん両者をミックスする手も派生する。

これまでの“実験”で、後者の金融政策がまるで効かなかったことは、黒田日銀が長年やってきた超金融緩和政策が、物価目標2%アップをいまだ実現できないことで証明されている。残る経済政策・景気対策は財政政策だが、この頼みの綱が、国と地方の借金残高1200兆円が重石となってこれ以上の借金財政がはばかられることになる。

そして、国の借金財政は孫子に借財を残すのかという国民の不安があり、それを政策論争に使う野党の抵抗がある。自民党政権が掲げる財政健全化計画では、国と地方の基礎的財政収支(OB)は、政府が黒字化の目標とする2025年度ではまだ赤字が2・9兆円残り、目標達成は27年度にずれ込む見通しだという。次期衆院選に向けて野党の政府批判はいよいよ声高になるだろう。

ところが今、コロナ退治の名目による34兆円の財政予算に反対の声を上げることができない。いわばコロナが菅首相の経済政策の柱である経済成長を支えるという皮肉な幸運をもたらしたことになる。コロナによる大規模補正予算による財政支出が、財政再建無視の放漫財政として野党や国民の非難を浴びることもなく、その財政支出によって20年度の思わぬ税収増をもたらし、税収増によって財政健全化目標の前倒しまで可能になった。

しかし、コロナ禍の後には依然として少子高齢化社会保障、そして財政健全化の問題が以前にもまして厳しく待ち構えているのである。菅首相が続投するかどうかわからないが、コロナ後の自民党政権はコロナによる放漫財政から脱却して新たな経済・社会の姿を国民に示さなければならないだろう。(20201・8・8 山崎義雄)