ババン時評 借金国家の実用経済学

日本は世界に冠たる借金国家である。だからコロナ克服が焦眉の急ではあるが、財政立て直し計画を無視するわけにもいかない。したがって菅政権も、歴代内閣の努力を受け継いで、財政再建をまじめに考えてはいる。しかし未だに金融緩和政策一本やりで物価目標2%の達成もできずにいる。

そして未だに使えそうな経済理論がない。足りなければ紙幣を増刷して使えという経済学者がいる。アベノミクスが取り入れた理論であるが、大胆な金融緩和と財政出動を説いたのが岩田規久男で、日銀副総裁を務めた。岩田は、政府財源が足りなければ日銀券とは別に政府の紙幣を発行しろとまで言った。この系統にはポール・クルーグマン浜田宏一伊藤元重らもいる。

ポール・クルーグマンは、デフレ克服のためには、お金をジャンジャン増刷してヘリコプターで国中にばら撒けといった。そして近年のMMT(現代通貨理論)がある。これは「ひどいインフレ(ハイパーインフレ)にならない限りどれだけ貨幣を増刷・供給しても問題ない」、仮に「ハイパーインフレになったら増税で回収すればよい」と説く。

要するにMMTは、国民が不安にならず世界が不信感を持たない限り、つまり日本国の信用がある限り、どんどん紙幣を増刷・供給していい。経済が大きくなるだけで、孫子(まごこ)にツケを回すなどという心配は無用だというわけだ。

一般の生活者としてはどんどん借金する生活は破綻するのが落ちだから、国の借金もよくないに決まっている、と考えるのが当然である。国は増税でチャラにするというが、一般生活者は自己破産か生活崩壊を免れない。実は国も、簡単に増税できるとは思えない。数パーセントの増税も内閣を揺るがすのである。

経済学の初歩で言えば、経営学の元祖・アダム・スミスは、個人の自由な活動に任せておけば利を求める行動がうまく作用して経済は成長する、つまり自由な市場にまかせろと言った。しかし、1世紀ほど後のジョン・メイナード・ケインズは、不況は需要の不足から起きるのだから、不況や失業を防ぐためには政府の財政投資を増やせと主張した。これに対してフリードリヒ・ハイエクは、政府は経済政策策定に必要な実体経済の情報を十分に取れないから政府主導の経済政策は失敗するとしてケインズに対抗した。

そんな具合で経済学はああだこうだと難しくなる。そもそも経済学は実体経済の“後追い分析”を踏まえた理論の体系化だから、最初に理論ありきの実体経済ではない。つまるところ、借金国家の実用経済学はない。借金国家の運営も財政再建の筋書きも、健全な生活者の常識を基本に考えるべきだという変哲もない結論になるのではないか。(2021・8・23 山崎義雄)