ババン時評 抹殺された?歴史教科書

 文科省に覚えのめでたくないのが教科書出版の「新しい歴史教科書をつくる会」だ。同会は1997年の発足である。設立のきっかけは、前年の中学校歴史教科書に、「従軍慰安婦」強制連行説を前提にした記述が入ったことにあった。これに憤激した人たちが結集し、歴史の「自虐批判」を批判して、それに汚染されない教科書を作ろうと活動してできたのが「新しい歴史教科書」である。

 『新しい歴史教科書』の初版は、2000年度の検定に合格し、その後も連続5回の検定に合格したが6回目の2019年度検定で「不合格」となった。これは新たに制定した「一発不合格」の規定を適用した初の事例となった。指摘された「欠陥箇所」は過去に例を見ない405項目、欠陥とする主な理由は「生徒が誤解する恐れのある表現」である。

 その、文科省教科書調査官による「不正検定」を暴いたのが、藤岡信勝著「教科書抹殺」(飛鳥新社刊)で、「不正検定」とする100事例を挙げている。例えば、古代の仁徳天皇は世界一の古墳に「祀られている」は誤りで、「葬られている」とすべきだという。「天皇を敬う」ことを子供たちに教えてはいけないということかと著者側は推量する。

 また「西南戦争西郷隆盛が戦死して戦いは終わりました」との記述の「戦死」はダメだという。西郷には「自害」説もあるが、しかし調査官は「自害」にせよとも言わない。「征韓論」に反発する韓国への忖度で、西郷を英雄視するのはまずいということかと著者側はみる。

忖度では、「韓国・中国への忖度限りなし」として、「清朝滅亡後の中国大陸は、軍閥の割拠する無法地帯と化しました」との記述の「無法地帯」がダメだという。内戦7年間の犠牲者は、総計3千万人に及ぶとの推計もあり、「無法地帯」を不可とするなら理由を説明してもらいたいと著者側は言う。

最後の章で、教科書調査官らが「揚げ足取りと難クセ」で欠陥箇所を量産したあの手この手の10数例を挙げる。一例で、本居宣長古事記を蘇らせるまで、和漢混交文で書かれた「古事記」は誰も読めなくなっていたとする記述が誤りとされ、著者側の問合せに対する調査官の答えは、「神主の中には古事記を読めたものもいたらしいですよ」というものだったという。

ともあれ、「つくる会」教科書の主張がすべて正しいとは言えないにしても、積み上げられた「欠陥箇所」405か所は、合格した他社教科書で最も多いM社の144か所、次いでY社の52か所に比べて断トツである。大量の欠陥箇所指摘と、それを理由にした「一発不合格」の裁定は、文科省検定調査官の作為を十分に推定させるものがある。(2021・9・26 山崎義雄)