ババン時評 真っ当な「バラマキ批判」

衆院選を目前にしたこの時期に、票目当ての財政大盤振る舞いをうたう与野党の動きに冷や水を浴びせるような「バラマキ批判」が出た。こともあろうに政府の足元、財務省のトップである矢野康治財務次官が、月刊誌「文芸春秋」11月号(10月発売)で「このままでは国家財政は破綻する」と訴えた。

矢野氏は、「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりだ」と言い、「今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものだ」として、国家公務員である私は、「心あるモノ言う犬」として指摘したいと言う。

時あたかも国会では、野党の代表質問で、まずは立憲民主党の枝野代表が、首相の「成長と配分の好循環」論に反論した。すなわち経済成長の果実を分配するだけでは、いつになっても好循環は進まないといって、「出発点は適正な配分にある」と訴えた。さらに、次の総選挙で仮に立民が政権を取ったとしたら、年収1000万円程度以下の人の所得税を1年間免除し、消費税を時限的に5%に引き下げるとぶち上げた。

これに岸田首相は「成長なくして分配できるとは思わない。まず、成長を目指すことが重要だ」と返したのは真っ当だ。枝野論のバラマキでは、たとえ一時期消費を喚起できたとしても、本格的な経済成長につながることはない。そして財政悪化を招くことは確実だ。

時を同じくして、読売新聞(10・12)に小峰隆夫大正大学教授が「経済対策 規模優先でなく」とする論考を発表した。小峰氏は、与野党は分配政策に力を入れているが、コロナ対策での財政支出の先行はやむを得ないが子育て支援など中長期的な課題については、当初から財源の裏付けが欠かせないとして、きちんと分けて考えよと言う。

また小峰氏は、平成時代のバブルでは気づくのが遅れ、対応も後手に回って傷が深くなったとする。そして経済には時として大きな課題が現れるが、社会全体がそれを認識するには長い時間がかかると言い、現在のそれは、巨額の財政赤字だと言う。この財政赤字潜在的には極度の混乱、国民の負担を招くリスクがある。選挙ではこうした課題を議論してもらいたいと提言する。

小峰氏のバブルの教訓は、矢野氏の「タイタニック論」と符合する。矢野氏の論稿には与党内にも「なんで選挙前のこの時期に」とか「役人の分際で」などと不快感が強いというが、選挙直前の今だからこそ言う価値があると言えよう。(2021・10・14 山崎義雄)