ババン時評 違いの分かる自民の安保公約

いったい公約で政党や候補者を選ぶ選挙民はどれだけいるのだろうか。衆院選を目前にして、危機感を強める自民党をはじめ各党の公約は、実に似たり寄ったりである。選挙戦は各党による給付金のばら撒き合戦の様相を強めている。しかしその財源となると、国債発行を挙げる以外には、税収増など確たる財源を挙げる政党はない。

各党は「バラマキ公約」で票を集めるつもりだろうが、これにつられて政党を選ぶほど選挙民は馬鹿ではない。面白いのは、コロナ対策や経済対策、経済成長などの空手形では党の違いを出すことが難しいが、外交・安全保障政策となると、俄然、各党の立ち位置の違いが顕著になる。とりわけ独裁色を強める中国に対する各党の姿勢の違いは鮮明である。

自民は軍拡にまい進する中国を念頭に、安倍内閣が目指し、菅内閣が棚上げしていた「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を本格的に検討する。これは敵のミサイル発射基地を自衛目的で破壊する敵基地攻撃能力を視野に入れたものだ。政権の一翼を担う公明は、中国との友好関係を重視し、中国の軍拡にはあえて触れない。

一方の野党では、立民が「中国の挑発行為には毅然として対処する」と威勢は良いが、敵基地攻撃能力の保有となると「憲法解釈に照らして慎重な検討を行う」と腰が引けてしまう。国民は「自立的な安全保障体制」と内容の見えない公約を掲げ、日本維新の会は「領域内阻止能力の構築への検討」とやや前向きな姿勢を示す。しかし総じて公明や立民、国民、共産など野党の、中国をにらんだ我が国の防衛力整備には否定的だ。

さらに自民党は、2013年に策定した防衛大綱と中期防衛力整備計画を見直して、新たに安全保障政策の基本方針となる「国家安全保障戦略」を策定するとしている。また、防衛費も、北太平洋条約機構(NATO)諸国並みの、国内総生産GDP)比2%以上も視野に増額を目指す。

また、治安・テロ対策では、サイバー空間において官民連携を進めるとともに、国の捜査部隊を新設するなどして、サイバー犯罪やサイバー攻撃などへの対処能力の強化に努める。海上保安に関しては、海上保安庁の巡視船などの増強及び人材の育成・定員の増員を図るとする。

同時に、普天間飛行場辺野古移設や在日米軍再編を着実に進めるとする。今度の衆院選では、他の政策ではどの党に任せてもさほどの違いはないだけに、賛成するも反対するも自由だが、中国がのさばる今日この頃、各党の中で唯一、安保政策で違いの分かる公約を掲げる自民に注目する必要があるのではないか。(2021・10・25 山崎義雄)