ババン時評 「新しい資本主義」の正体

岸田首相の目玉政策にケチをつけるつもりは毛頭ない。だが気になる疑問が1つある。岸田内閣が本格始動して、打ち出した第1弾が「新資本主義実現会議」である。そこでいま1つ分からないのが、首相の提唱する、この「新しい資本主義」である。

自民党総裁選で岸田氏が「新資本主義」を大々的に打ち上げた時は、大げさなキャッチコピーを打ち上げたものだと驚いたが、どうやら岸田氏は本気らしい。岸田首相は「世界で、新たな投資や成長を目指す『新しい資本主義』構築の動きがあり、わが国も先導していくために緊急提言を取りまとめ、新しい資本主義を起動していきたい」と述べた。

そして「新しい資本主義」で「経済を成長させ、成果を分配する」ために、「成長と分配の好循環」を実現するのが「新しい資本主義」だと言う。しかしそれのどこが新しいのか。自由市場で資本をフルに活用し、「成長と分配の好循環」で経済的果実を求めるのは資本主義のイロハではないか。そして、「新たな投資や成長を目指す」のも資本主義の常道だ。

それでも「新しい資本主義」を標榜するなら、「資本」が「労働」を利用するという伝統的な資本主義の骨格に揺さぶりをかけるとか、最近ならトマ・ピケティの『21世紀の資本』や斎藤幸平の『人新生の資本論』程度への否定ないし修正の「新理論」を構える必要があろう。しかしその論理構築は現実問題の解決という「実務」に取り組む政治(家)が挑戦すべきテーマではないだろう。

ただし現在、多くの人々が新しい資本主義が必要だと考えていることは確かだ。この場合の「新しい」とは資本主義の否定ではなく修正だ。資本の否定でも格差の否定でもなく、せいぜい資本や格差の縮小を求める声で、結果は資本主義の延命策を求めることになる。

その了解のもとに、「新しい資本主義」に目くじら立てずに岸田首相の「成長と分配」政策を見ると、「成長」では、研究開発や経営支援、起業促進などへの財政や税制面での支援、制度改革など。一方の「分配」面では、フリーランスの保護、賃金格差の解消、賃上げ企業への税制支援、子育て家庭への支援、看護や介護、保育などで働く人への報酬加算や公的価格の見直しなどを挙げる。

その方策の多くが岸田氏の「新資本主義」以前からの課題ないし焼き直しが目立つ。総じて「成長」も「分配」もバラマキ支援の色合いが濃いのだが、肝心の財源が不透明だ。その点からも、岸田氏が自民党総裁選で掲げた「金融所得課税の見直し」について言及のないことが残念だ。(2021・11・11 山崎義雄)