ババン時評 中国共産党に新DNA注入?

中国共産党は、今年(2021年)で創立100年を迎えた。これを機に出版された一書に石川禎浩著『中国共産党、その100年』(筑摩選書)がある。著者は、中国共産党の「DNA」は第1にコミンテルンから、第2に毛沢東から受け継いでいるとする。中国共産党の歴史はダイナミックな変遷をたどっているが、変わることのないこの2つのDNAを受け継いで現在の中国共産党があるという。

コミンテルンは第二次大戦後のロシアにできたレーニンらによる共産主義者の国際連携組織であり、その影響下で発足したのが中国共産党だ。しかし本流の共産主義革命は「労働者」によるものだが、中国には「農民」しかいなかったところに特色がある。本書によればその特殊な革命基盤における中国的共産主義のDNAを創ったのが毛沢東であるということになる。

中国共産党軍は、たびたび武装蜂起したが国民党軍に惨敗し、都市部を捨てて農村部を「長征」する。さらに、1937年から8年に及ぶ日中戦争ではコミンテルンの指令で国民党との「国共合作」で対日戦を戦う。1945年の太平洋戦争終結後は本格的な国共内戦に突入。共産党軍は、国民党軍に先行して鹵獲した日本軍の小銃や機関銃、大砲など、豊富な武器・弾薬で国民軍を殲滅し、中華人民共和国を建国する。1949年、敗れた国民党政府は台湾に逃れる。

1976年9月、毛沢東死去、享年82。いま毛の生涯は「功績第一、過ち第二」で、功績が優ると評定される。しかし中国共産党の歴史は、結党以来の反革命闘争における血の粛清、多くの冤罪や大量殺戮の歴史でもある。毛のもとにあった最高指導部である中央政治局委員15名のうち、毛の時代をまともに生き延びられたのは徹底服従を通した周恩来ただ1人だとされる。

毛沢東の最晩年は、過剰に集中した政策決定権を肉体的に果たせず、統治者の老いと判断能力の低下によって社会と国家がすくんでしまうにもかかわらず、誰も代わりになれないという政治システムが行き着いた末期的状態だった。それは政権の交代ルールを持たない体制では、避けがたく周期的にやってくるものである、と上記書は言う。

先に『ババン時評 習氏個人礼賛の「歴史認識」』で、今や中国共産党の「個人的崇拝禁止」の決まりは消し飛んで、習近平主席への個人礼賛は黙認を超えて公認となったと書いた。そして中国の御用新聞「人民日報」のネット版(11・12)が、「習近平による特色ある社会主義思想」は「全党・全軍・全国各民族の共通の願いが反映されおり」、「必ずや新時代のあらたな道のりにおいてより偉大な勝利と栄光を勝ち取るであろう」と結論づけていることを引いた。さて、習近平主席は、中国共産党にどのような第3のDNAを埋め込もうとしているのだろうか。(2021・12・18 山崎義雄)