ババン時評 安易な住民投票への外人参加

地域住民がいろいろな地域の問題を解決するための、住民投票の権利を、地域に住む外国人にも与えようという自治体の例が注目されるようになった。直近では、東京都武蔵野市で、3カ月以上市内に住んでいる18歳以上の外国人に投票権を与えようという、住民投票条例案が市議会に提出された。

市議の間で賛否両論があり、早くから結果が注目されたが、結果は11対14の僅差で否決・廃案となった。松下玲子市長は引き続き制定を目指すという。仮に同条例が成立すると、投票資格者の4分の1以上の署名があれば、市のあらゆる重要テーマについても住民投票にかけて決められることになる。

さらに投票権者は、単に外国人居住者というだけでなく、長く地域に根を下ろすことの少ない留学生や技能実習生まで含まれるとなると疑問が生じてくるのは当然だ。地域で暮らす外国人の意向を自治体の行政サービスに生かすという趣旨は分かるが、短期滞在者の要請は別に考えるべきだろう。

武蔵野市では、かろうじて否決されたが、すでに外国人の投票を認める住民投票条例を施行している自治体が全国で40例を超えているようだ。その多くは3年以上の在住者という条件を設けているが、武蔵野市が目指した日本人と区別しない形で投票権を認めているのは豊中市、逗子市だという。

もちろん地域の政治・行政の改善や住民サービス改善のために住民の意見を聞くことは大事であり当然である。しかしそれは日本人住民の意見だけだは不足なのか。地域になじみつつあるにしても基本的に文化も慣習も違う外国人居住者の意見を聞かなければならない特別の意味があるのか。

仮に外国人居住者の意見を聞くメリットがいろいろあるにしても、逆にたとえば母国とつながる政治的意図をもって動くとか、外国人同士の連携や他の自治体との似たような連携を持って意図的な動きをする恐れも考えられるのではないか。投票結果に法的拘束力はないとはいえ、結束力は無視できない。

第173回国会(平成21年)に出された請願に、「永住外国人への地方参政権付与の法制化反対に関する請願」がある。この請願の要旨は、「中央、地方を問わず参政権は国民固有の権利であり、外国籍を持つ者に日本の参政権を安易に付与すべきではない」とするもの。

ちなみに憲法参政権を国民固有の権利としている。住民投票権の付与は、この憲法や上記請願の趣旨に準じて考えるべきものだろう。したがって、外国人居住者への住民投票権の付与は、請願いわく「いざとなれば帰るべき母国を持つ人々」に、定住する日本人住民の生活権、生存権まで左右しかねない介入の権利を与える恐れがあることを考えるべきだ。(2021・12・27 山崎義雄)