ババン時評 狂気の「道連れ自殺」志願

友人が、ネット・エッセイで昨今の事件に見る「甘ったれ屋」を嘆いている。大阪で病院に放火して大勢を焼死させた男、東京の電車内で放火し乗客を刺傷したた男、東大前で3人を刃物で刺した高校生など、いずれも人を多数殺せば自分も死刑になる、死ねると思ったと犯行の動機を述べる。こうした自分自身で命を断つ勇気のない(あるいは目立ちたがり屋の)幼稚と狂気を嘆くのである。

そういう輩とは無縁の動機で自らの人生の幕を閉じる自殺者もコロナ下で増えている。厚労省の2021年版「自殺対策白書」によると、20年の自殺者数は全国で約2万1000人となった。増加は11年ぶりで、男性は減少したものの女性の自殺が増加した。とりわけ職についていた女性のうち、飲食・サービス業などでの非正規労働者が多く、コロナによる雇用環境の悪化が自殺の要因とみられる。

一般に自殺の背景には、精神的な要因と共に、社会的な要因である経済的な困窮、生活上の過労、いじめや孤立などさまざまな要因がある。その結果、死を選ぶところまで心理的に追い詰められて、自殺以外の選択肢が考えられない状態に追い込まれてしまうことが知られている。

したがってそうした自殺者は一途に、そして孤独に自殺の実行に向かう。ところが「道連れ自殺」を狙う「犯人」は、方法の計画や凶器など手段の準備に時間と労力と費用を掛ける。そこが許しがたい。要するに大半の自殺者は、それ以外の選択肢を失って自殺に向かうが、道連れ自殺志願者は、まず犯行を計画する。自殺(志願)者である前に犯罪者である。

そこで先の友人は、そうした愚かにして極悪非道なる殺人者に対して、「人を巻き添えにしないで自殺しろ」「自分の身は自分で始末しろ」と叱るマスコミや警察官がいないのはどういうことかと怒る。たしかに、人に「死ね」と言うのはそのこと自体が最悪ではあるが、今は、マスコミや警察や、学校や教育委員会などまで厳しい叱責や処分を科すことに及び腰だ。

ある研究によれば、報道機関の自殺の報じ方が変化したことで、特定の手段での自殺が減少した事実があるという。このことは逆に言えば、目下の他人を巻き込んでの自殺願望もマスコミやネットによる過剰な報道が招いた模倣犯的な事件の連鎖を生んだ可能性があることになる。となるとマスメディアは犯人を叱る前に、興味本位の過激な報道こそ慎むべきだろう。

なにはともあれ「道連れ自殺」の幼稚と狂気は許しがたい。自殺の形には昔ながらの方法から現代的な方法までいろいろあるが、他人を巻き込んでの「道連れ自殺」は、もっとも反社会的で反道徳的だ。そして、けっして世間の同情を買うことのない、もっとも哀れで情けない死に方だ。そのことを国もマスメディアも徹底して説き、とりわけ若者層に周知させるべきだ。(2022・2・6 山崎義雄)