ババン時評 「プッチン大統領」の狂気

「プッチン大統領」は誤字ではない。私が付けたあだ名である。プーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻が一頓挫しているように見える。プーチン大統領に正義はない。武力で正義が実現するわけがない。そこに誤算がある。ふところの核兵器をチラつかせて武力を誇示し、ウクライナは弱いと見くびり、欧米も一枚岩になれないと安易に予測する。

この争いは、「戦争」以前の「紛争」とは思えない段階に差し掛かっている。後にウクライナ戦争と呼ばれるのではないか。戦争の仕掛け人はプーチン一人である。閣僚も軍隊も国民も「一枚岩」ではないことが徐々に暴露されつつある。多分プーチンは今、孤独と焦燥、不安にさいなまれている。しかしプーチンはそれを上回る恐ろしい狂気がある。

「プッチン大統領」とは、露KGB出身のプーチン大統領誕生以来、「すぐ切れる」という意味を込めて名付けたあだ名だが、今まさに大統領は正体を現してプッチン状態を露呈している。(たまたま「プッチン」の意味を確認しようとネット検索したら、グリコのCMにプッチンプリン「プッチン大統領/記者会見」編という宣伝が出ていてびっくりした。これは私の「プッチン大統領」とは無関係だ)

プ大統領の正体は狂気プラス嘘つきである。噂の出所がプ氏だとは言えないが、ウクライナ空爆の多くがウクライナによる自作自演だという信じられないうわさが流布している。テレビ(3・2 BSフジ)で、小野寺五典防衛大臣とミハイル・ガルージン駐日ロシア大使の対談があった。大使もその空爆の「自作自演」説に言及した。

さらに大使は、今回のウクライナ侵攻は第二次大戦におけるヒトラー・ドイツのポーランド侵攻と同じだと言う。ポーランドのドイツ系国民の保護などを名目にしたヒトラー・ドイツによるポーランド侵攻だったが、事実は、いろいろな自作自演の事件を起こして侵攻の口実をつくり、第2次大戦の口火を切ったポーランド侵攻である。

このポーランド侵攻を肯定的に評価して、ウクライナ侵攻に正義ありと主張したいらしいが、あきれるばかりの歴史認識だ。ただしウクライナ東部の住民がロシアに支援を求めている」とか、「ウクライナ政権によるジェノサイド(集団殺害)にさらされている人々を保護するため」などと強弁して侵攻の口実にしたり、「ロシアの計画にはウクライナの占領は含まれていない」などとダマしにかかるところが同じだというなら納得がいく。

対談では、司会の問いに対して、日本語に堪能な大使が、日本人のようにしどろもどろで論理性に欠けた主張を繰り返す。片や小野寺氏は、司会の問いに応じて次々と新たな視点を持ち出して明快な主張を展開する。大使の情けない答弁ぶりは、いまや世界の厳しい批判を浴び、国内では軍の士気の低下と国民の反戦デモに揺れるロシアの迷いの表れだろう。(2022・3・3 山崎義雄)