ババン時評 プーチンが教える軍事強化の要

プーチン・ロシアはウソつき国家である。ウクライナの一部地域から「救援を求められた」から軍隊を派遣したと見えすいたウソをつく。ウクライナを「占領するつもりはない」といいながら首都を始め全土にミサイルを撃ち込む。随所の主要施設やついには原発施設にまでにミサイルを撃ち込みながら、その大半はウクライナによる自作自演だとデマを広める。

恐るべき原発攻撃は世界の非難を浴びたが、これを国際法違反だと非難してもプーチンには通じない。通じないどころか、国連の安保理では、この原発攻撃と火災発生についてロシアの国連大使は、ウクライナ工作員による偽装作戦だと主張した。これにウクライナ国連大使が「うそを広めるのはやめろ」と反発したと伝えられる。ロシアは立て続けにウソをついて恥じるところがない。

国内でも徹底した専制政治を展開する。ウクライナ侵攻に対する反戦デモが激しくなったら、即刻「露軍に関する虚偽情報を広める行為」を取り締まる法律を作った。これで反戦デモの呼びかけはすべて虚偽情報の流布ということになる。つまり虚偽情報とはロシアに都合の悪い情報、というよりプーチン専制政治に異を唱えることであり、違反すれば最高15年の禁固刑を科されることになる。

昔から戦争と虚偽情報はつきものだった。しかし今は、映像も含めた情報戦で戦争推移の現実が丸見えの現代戦であり、昔ながらのウソ情報作戦は通じない。それが通じると考えているとしたらプーチンの神経が理解できない。しかしプーチンはウソで世界をだまそうとは考えていない。ウソはばら撒くがウクライナを攻略するのは武力だと確信しているところがプーチンの恐ろしさである。

第2次大戦の口火を切ったのはドイツによるポーランド侵攻だが、その発端は、ドイツの一地方でポーランド系住民の一団がラジオ局を襲撃し、ドイツに対するストライキを呼びかけた事件だった(1939年)。この暴徒鎮圧で死者まで出たが、のちにこれはポーランド侵攻の口実とするためのドイツ親衛部隊による自作自演だったことが判明した。

しかしこのお手本のような事件は、日本による張作霖爆殺事件である(1928年昭和3年)。これは日本の関東軍が、満州経営に邪魔な奉天軍閥の指導者・張作霖を移動中の列車ごと爆殺した事件である。この事件を国民革命軍の仕業と宣伝し、それを口実に南満州の侵攻・占領に乗り出した。この事実は戦後まで隠蔽された。昔の偽装やウソは長持ちしたのである。

ウクライナ危機は、対岸の火事ではない。前統合幕僚長の河野克俊氏は、ウクライナ情勢を注視しているのは尖閣列島を狙っている中国だとして、「今回の危機は軍事力を抑え込めるのは軍事力しかないという現実を示した」とする(読売3・12)。プーチンもウソを並べ立てるが、相手を屈服させるのは武力以外にないと確信している。わが国も軍事力強化の根本的な見直しが必要ではないだろうか。(2022・3・20 山崎義雄)